「いいんですか? クロエさん」
「ええ。でも侍女経験は私にはないわ。あなたが私の先生になって、いろいろ教えてね」
「もちろんですっ」
まだ許可を出していないというのに、盛り上がりだしたふたりに、伯爵は呆気に取られて言葉もない。
「では俺も、お目付け役を兼ねて、しばらく父上の側近として城に上がらせてもらいましょうか。よろしいですか? 父上」
「……仕方ない。だが皆、自分の命を一番に考えるんだ。それができなければ、すぐにでもカイラ様の侍女を辞めさせるからな」
「ありがとうございますっ」
ふわふわの髪を揺らして、ぺこりと頭を下げるロザリーに、イートン伯爵はやれやれとため息をついた。
「……あの」
おずおずと、レイモンドが手を上げる。
「できれば、オードリーがどうしているかも調べて欲しい。あれから全く連絡が無くて、クリスだって俺だって心配だ。可能なら俺だって一緒に連れて行ってほしんだが」
「レイモンドは無理だよ。国王からでも呼び出されない限りは、一介の料理人を連れていくことはできない」
「ですよね……」
はぁーと深いため息をつくレイモンド。不安そうにしがみつくのはクリスだ。
「できる限り調べてきますから、待っててください、レイモンドさん!」
「……悪いな。ロザリーに頼りっぱなしだ」
「いいえ。私が一番大変だったときに助けてくれたのはレイモンドさんですよ。これは恩返しです。だから、そんなに負担に思わないでくださいね」