アンスバッハ侯爵派の議員から提出されていた平民への課税法案が、議会で賛成多数で可決された。
日を改めて、国王の承認が下される。
翌日、法案を国王に提出したアンスバッハ侯爵は、書面に軽く目を通しただけで、国璽を押すナサニエルを見て、口もとを緩めた。
(すっかり意欲を無くしたようだな。いい傾向だ)
「……これが通れば国民からは不満が噴出するだろうな」
自分で法案の最終許可を出しておきながら、ナサニエルがぼそりと言う。
「何をおっしゃいます、陛下。国家を維持するのに必要な費用を確保しているだけです」
「我々貴族の懐は痛まないのに?」
「我々には多くの責任と義務があります。そうして築き上げたこの国で、平民たちを生活させてやってるんですよ?」
ナサニエルは目を細めて、印を押したその書類をアンスバッハ侯爵に渡す。
「もういい。下がってくれ」
「はっ」
ナサニエルの態度に腑に落ちないものを感じたが、侯爵はこれ以上余計なことは言わず、退出した。
それにしても彼がなにを考えているのか、最近はよくわからない。アイザック王子の捜索についても、もう少し口出ししてくるかと思ったが、まだ見つからないという報告に「そうか」と告げただけだった。