「私は玉ねぎを切るから、ロシュはパンを一口サイズに切ってもらえる?」

「わかりました!」

「切ったパンはグラタン皿に並べておいてね」

 ロシュは元気な返事の通り、頼もしい手つきを披露してくれた。
 玉ねぎを切り終えたカルミアはフライパンにバターをしき、熱するためにコンロへと手を伸ばす。

「あ、カルミアさん。ここのコンロちょっと古くて」

 初期に発明されたコンロは機器の接触が悪く、火がつきにくいことがある。おそらくこのコンロもそうなのだろう。しかしカルミアはロシュが言いかけたていた時点で自らの火を起こしていた。

「カルミアさん凄い……。今までここに来た人たちはみんな、古くて困ってたんですよ」

「これくらい平気よ」

 カルミアは玉ねぎを炒めながら平然と答えた。

「でもここ、古い設備ばかりですし、使いにくくないですか?」

「そんなことないわ。確かに旧式の設計が多いけど、必要な物は揃っているし、調理台も清潔に保たれている。広さも十分だし、船上よりはずっと使い勝手がいいわよ。揺れもしないし、落ち着いて調理が出来るもの」

「センジョウ?」

「ええ」

(玉ねぎはしっかり炒めてっと!)

 カルミアは軽快にフライパンを振り炒めていく。

「センジョウって、カルミアさん戦場にいたんですか!?」

「え?」

 どうやら生返事をしていたのがいけなかった。

(しまった! その話題はまずい!)

 深く聞かれては正体が露見してしまう。カルミアは慌てて誤魔化すことにした。

「ま、まあ、その……色々あってね。けど、たとえ過去に何があったとしても、今の私はここで働いているわ。だからそう、過去のことはあくまで過ぎ去った過去として私は接しようと決めているの。だから勝手なお願いで申し訳ないんだけど、過去のことはあまり聞かないでくれると助かります!」

「カルミアさん……苦労されたんですね。すみません、思い出させてしまって」

 はたしてロシュが正しくカルミアの伝えたかったことを理解してくれたのかはわからない。だが納得してくれたというのなら追及しないほうが自分のためである。

「い、いいのよ、気にしないで。私こそ変な空気にしてごめんなさいね。ええと、塩と胡椒はどこだったかしらー……味付け味付け!」