唖然とするカルミアたちを取り残し、リシャールはメニューを訊ねた。やはり食事をしに来たというのは嘘ではないらしい。

「本日のメニューをお聞きしてもよろしいですか?」

「いつも通り、らしいのです」

 言い難いことではあるが、カルミアは正直に答えた。学食で働く身としては答えるしかないだろう。

「そうですか。ではカルミアさん、私は貴女の料理を注文させていただきたいのですが」

 カルミアは一瞬何を言われたのかわからなかった。

(気のせい? 私の料理が食べたいと言われたような……)

 戸惑うカルミアは用意されている答えを述べた。

「本日のメニューは、すでにベルネさんが用意されているらしいのですが」

「私はカルミアさんが作ったものが食べたいのです。お願い出来ませんか?」

 そう言われてもだ。ここは学園の学食で、船で気軽に料理を披露するのとはわけが違う。自分は料理を専門に学んだ人間ではないのだから。
 そもそも勝手に調理場を使っても許されるのだろうか。判断に困ったカルミアは先輩であるロシュに訊ねた。

「ロシュ、どうすればいいと思う?」

「校長先生からのお願いですし、問題ないんじゃないですか? ベルネさんの作ったものしか出すなというルールはありませんし」

「ロシュもこう言っていることですし、お願い出来ませんか?」

 小首を傾げながら、「ね?」と訊ねてくるのは狡い。顔が良い人がそういうことをするのは本当に狡い。
 そこでカルミアはいっそ開き直ることにする。あの料理を出して悩むくらいなら自分で作った方がいいだろう。
 現場のトップである校長が望むのなら、彼に雇われた身としては断るわけににもいかない。

「確かに、リシャールさんは校長先生でしたね。それはリクエストに答えないわけにいきません。何を召し上がりますか?」

 保冷庫の中身は掃除の段階で確認済みだ。あとはリシャールからの要望を取り入れてメニューを組み立てる。

「そうですね……お恥ずかしい話ですが、私はあまり料理には明るくありませんので、カルミアさんのお勧めにお任せしたいのですが」

「かしこまりました。少々お待ちいただけますか?」

「はい。喜んで」

 リシャールはとても嬉しそうに席につく。上機嫌に窓辺の席を選び料理が出来あがるのを待つようだ。