「カルミアさん。こちらでの仕事にはもう慣れましたか?」

 びくりとカルミアの肩が震えあがる。

(ほら来たー!)

 カルミアが働き始めてからというもの、リシャールは毎日のように学食を訪れている。いつも決まってピークが過ぎてから、同じ時間に表れては似たような質問を投げかけ去っていくのだ。

(これ絶対私の様子を探りにきているのよね!?)

 動揺を見破られまいとカルミアは笑顔で答えた。取り乱しては負けているようなものだ。

「はい。頼もしい同僚たちのおかげで」

「そうですか。カルミアさんが働き始めて一週間、職場の環境にも慣れたようで安心しました」

 何も知らない人間が聞いたのなら、新人の部下を気遣う優しい校長だろう。
 しかしカルミアにとっては別の意味に聞こえていた。

「不慣れなもので……仕事が遅く、申し訳ありませんでした」

「まさか! カルミアさんは存分に働いて下さっていることは存じていますよ。貴女がここで働くようになってからというもの、生徒たちは楽しみが増えたと喜んでいました。私たち教師も同じ思いです」

「名高いアレクシーネで、学食とはいえ働けることは名誉なことですから」

「そのようにおっしゃっていただけると校長として誇らしいですね。今後とも働きに期待していますよ。カルミアさん」

「ご期待に添えるよう、頑張りますわ」

「何か困ったことがあればいつでも頼って下さいね」

「はい――っ」

 笑顔。

 笑顔。

 笑顔――!!

「ありがとうございます」

 微笑ましいやり取りも、悲しいことにカルミアにとってはすべて皮肉に聞こえていた。
(どうせ本音はこうでしょう! 一週間も働いておきながら成果がないようですね。嘆かわしい。私は貴女の働きに期待しているのですよ。とか思っているんでしょう!?)

 あくまで穏やかな表情を作り、カルミアは真っ向から微笑み返す。するとリシャールからも同等のものを返されてしまった。

(これがラスボスの威圧感!?)

 カルミアにとってリシャールの笑顔は嘘か本当かわからない。仮面の下で何を考えているのか、わからないからこそ怖ろしい。周囲と同じように憧れだけで向き合えたなら、どれほど心安らかでいられただろう。