(悪い人ではないと思う……思いたい、かな)

「さあ、話は済んだね。あたしは帰るから、もう二度と不味いなんて言うんじゃないよ」

 ベルネは会話を終わらせて消えようとするが、カルミアはとっさに引き止めた。

「帰るってベルネさん、仕事は終わったんですか?」

「鍋に作り置きを用意してあるからね。あたしの仕事は終わりだ。あとはロシュがよそって出せばいい。片付けば任せたよ」

 確かに客はいないが、まだ学食のピークである昼にすらなっていない。それなのにベルネは仕事を終えたと言って譲らないのだ。

「あの、本当にあの料理で……」

「なんだい。あたしに口答えしようってのか?」

「口答えではありません。まずは話を」

「違うのなら黙って従いな。そして二度と文句を言うんじゃないよ。あたしも次は許してあげられる自信がないからね」

 じりじりと、まるで決闘のようなにらみ合いが続いた。
 しかしベルネにとってはすでに決定事項であり、カルミアが反論する間もなく姿を消してしまう。
 空気に溶けるように、こうも自然に姿を消す術はさすが精霊だ。人間の言葉に耳を傾けない姿もまさに自然の化身というべきか。

(だからといって横暴にもほどがあるわ。というか、なんで私はおばあさんとにらみ合ってたのよ……)

 仮にも精霊相手に喧嘩をするのはいかがなものかという理性が働き、カルミアは大人しくフロアへ戻ることにする。ベルネの主張を認めるわけではないが、むやみに精霊の怒りを買うものではないだろう。

(けど、これじゃあ人気が無いのも頷けるわね。廃止っていうのも、まあ納得というか……ってだから私の密偵生活はどうなるの!? やっぱりあと一週間で終わらせろってこと? 無茶がすぎない!?)

 こちらは予想外の場所に配属され、混乱するところからのスタートだ。まず出だしからつまずいている。
 とにかく仕事が終われば一度リシャールと話す必要があるだろう。

 戻ったカルミアは実験も兼ねてベルネの噂話を口にする。

「ベルネさんて、とんでもないわね」

「あはは……ですよね」

 ロシュすら同意する威力がベルネにはあるらしい。
 しばらく反応を待ってから、カルミアは実験結果を検証する。