やがて懸命な人の姿に胸を打たれた精霊たちは彼に手を差し伸べる。
 心優しい精霊の力を借りた青年は苦難の末、救国の魔女アレクシーネを祖国へ連れ帰った英雄だ。

 そう、心優しい精霊の力を借りて……

(この人が!?)

「なんだい」

 まるでカルミアの心の声を読んだようにベルネが問いかける。

「いえその……想像していた人物像と違ったものですから」

 カルミアは精霊相手ということもあり、きわめて控えめに言った。
 子どもの頃から読み聞かされていた絵本では若い女性の姿で描かれていたのだ。性格もだいぶベルネとかけ離れている。なにしろ心優しい精霊だ。

「ふん、この姿は仮初めさ。本来の姿だと、美し過ぎて目立つからね。人前に出るにはこの方が都合が良いんだよ」

(姿形っていうか一番の問題は中身!)

 しかし悲しいことにカルミアの心の声は届かない。

「いいかい、小娘。あいつに免じて今回だけは見逃してやる。けどね、二度はないよ。もう一度あたしの料理を不味いと言ってごらん。ここから追い出してやる」

「そんなの横暴です!」

「横暴? 作ってもらっておいて、不味いと言う方が悪いんだよ!」

「はい!?」

「こっちは頼まれたから作ってやってるんだよ」

「頼まれた?」

「そうさ」

 それまで怒り任せに捲し立てていたベルネは得意げに語り始めた。

「昔、あたしは傷ついた人間たちを癒やすため、人のふりをして料理を振る舞ってやった。人間たちはたいそう喜んだよ。あんたみたいに失礼な態度は取らなかったね。だからあたしは今もここに残って、人間に力を貸してやってる。それを不味いだなんて言う奴が悪いんだよ」

「それは、たとえそうだとしても横暴だと!」

「黙りな」

 ベルネはぴしゃりと遮った。カルミアの意見など最初から聞く気はないのだろう。

「ここはあたしの楽園。あたしが法律だ」

(横暴!)

 未来では横暴とキャラクター紹介に書かれるカルミアであったが、こういう人こそが横暴なのではと思わずにはいられない。