学園に危機が迫っているため密偵として派遣されました。改めて現状をまとめてみると、とても人に話せる内容ではない。

 なんとか初登校の約束を取り付けたカルミアは、リシャールを見送り改めて室内を見渡す。
 ワンルームの室内には簡易キッチンに勉強机、ベッドに本棚と、生活に必要なものが一通り揃っている。クローゼットもついているのか収納も充実していた。

(ここが私の部屋か……良い部屋ね。でも寮なんて設定ゲームにあったかしら?)

 生徒たちは実家から通うか、近くに部屋を借りているかの二通りだ。そのため王都は学生の街としても栄えている。

(もしかして私が密偵だから特別に用意してくれた? なら、それだけしっかり仕事に励めってことよね。こちらも住みこみで調査出来るなんて願ってもないチャンス。ここから失態分も含めて取り返すわ!)

 さあ、制服とご対面!

 カルミアは意気込んで備え付けのクローゼットを開く。
 そこには焦がれて止まない深紅の制服が吊るされている――はずだった。
 しかしカルミアは時が止まったように固まっている。そしてまじまじと中をのぞき込んだ。

「んんっ?」

 まず目に飛び込んできたのは赤ではなく青。空のように澄んだ水色の、制服というよりはメイド服が吊るされていた。

「えっと……これ、何?」

 悩んだ末、ひとまずカルミアは着てみることにする。
 半袖のワンピースに、用意されていた白いエプロンも付けてみた。

「これはこれで可愛いと思うけど、なんの服?」

 見れば見るほど学生姿とはかけ離れている。しかしどれほどクローゼットを探しても、予備と思われるもう一着しか見つからない。

(仕方ないわね。もうこれで行くしかないわ)

 初日から遅刻するわけにもいかないだろう。とにかくリシャールが残してくれた案内役の蝶について行くことにした。