「大丈夫ですか? 校門で急に倒れたんですよ。覚えていますか?」

 心配そうにのぞき込まれたカルミアはすべてを思い出す。

「頭をぶつけたそうですが、意識ははっきりしていますか? 随分と魘されていたようですが、どこか苦しいのですか?」

(そうよね。私が知ってるリシャールという人は、こんな風に優しく誰かを気遣うような人じゃなかったわ)

 他者を寄せ付けず、孤高の存在として君臨する姿は校長というよりも学園の支配者に近いだろう。その正体は――

(この人ラスボスなのよねえ……)

 何故ラスボスが自ら学校の危機を救ってほしいと頼むのか。むしろ学園を危機に陥れるのはリシャールの仕事だ。
 それにしても……。
 本性を知ると、無害そうに感じていたリシャールの笑顔に寒気を感じる。裏があるのではと勘ぐってしまうのも無理はないだろう。
 記憶を取り戻したショックか、じんじんと頭が痛む。しかしカルミアはおそるべき現実を前に、急いでゲームの知識を整理する必要があった。

(そう確か、リシャールが校長になったのは優秀な魔女を探すという依頼を受けてのことだった)

 そのためだけにアレクシーネの校長になれというのは無理があるが、幸いにしてリシャールには依頼をこなすだけの力があった。
 そしてリシャールは主人公の才能が開花するよう、学園さえ巻き込む危険な試練を与えてくる。最後には自分という存在を試練に据え、主人公を追い詰めた。
 主人公と攻略対象は力を合わせてリシャールを破り、その結果リシャールはどのルートでも学園を追われ姿を消してしまう。

(そのラスボスが学園を救えってどういうこと!?)

 未来を知っているはずなのに、結局はわからないことだらけだ。