その発達した文明の一端に、乙女ゲームというものがある。主人公となった自分が魅力的な男性たちと恋をするという恋愛シミュレーションゲームで、カルミアも前世では乙女ゲームに日々を費やした身であった。

(これが乙女ゲーム転生……)

 とはいえ魔法が当たり前に存在する世界で十七年生きてきたカルミアは、そういうこともあるかもしれないと比較的すんなり受け入れていた。魔法があるなら生まれ変わりくらいあるよね~という感覚だ。

(カルミアには流行りを見極める力があると期待されたけど、それって前世の知識があったからよね……)

 世界が変わろうと、人々の感性は同じらしい。こことは違う文化、それも文明の発達した世界を知るカルミアにとって流行を生み出すことは難しくないだろう。
 そもそもカルミアは前世でも似たような仕事に就いていた。各地を回り、時には国外に出て輸入品の買い付け担当する。とにかく出張の多い仕事だったと記憶していた。

(そういえば前世でも、出張先で良いスパイスを見つけたからって、自作でカレーのルーを作っていたわね)

 乙女ゲームは旅のともに最適だった。無論このゲームもクリア済みであり、詳細なネタバレまで思い出すことが可能である。
 乙女ゲーム『アレクシーネの魔法(きせき)』は魔法学園を舞台とした作品だ。

 かつてこの国は一人の魔女によって滅ぼされ、一人の魔女によって救われた。
 邪悪な魔女を退け、国を救った英雄の名はアレクシーネ。彼女によって救われた国の名をロクサーヌという。
 舞台はアレクシーネの活躍から三百年の時が流れた世界。
 主人公はロクサーヌに暮らす平凡な少女で、物語は彼女が事件に巻き込まれ、魔法の才能を開花させる場面から始まる。
 アレクシーネ王立魔法学園へ特別入学を認められた主人公は、立派な魔女になることを決意し勉強に励む。
 学園生活の中で様々なキャラクターたちと出会い、魔法の腕を磨き成長していく。そして魅力的な攻略対象と恋に落ちるのだ。