「ラクレット家にはおよばずながら、私も国内外に多少は交流があります。カルミアさんは先ほど取引相手と会うことさえ難しいと話していましたが、私でよければ仲介いたしましょうか?」

 この申し出にはカルミアの目の色が変わった。

「リシャールさん、あの農園主とお知り合いなんですか!?」

「教え子の実家です」

「リデロ、すぐに確認を!」

 飛び出していったリデロは戻るなり、彼の話が本当であることを告げる。

「いかがでしょう。今後のためにも魔法学園の校長に最大級の恩を売っておくことは悪い話ではないと思いますよ。なにしろアレクシーネは魔法教育の最高峰。卒業生は世界各地で幅広い活躍を見せています」

(確かにアレクシーネの校長と縁を持つのは悪くない。国内の重要な役職はほとんどアレクシーネの卒業生が抑えているもの)

 アレクシーネを卒業すれば、それだけで将来は約束されている。どんな職業にも魔法の力は必要とされ、最高峰のアレクシーネの名があれば引く手あまただ。その校長に恩を売れる機会は滅多にないことである。

(もしかして、この国に立ち寄っていたのは協力者を集めるため?)

 そして帰りの船で期待以上の存在であるカルミアに出会ったというわけか。
 どうやらリシャールは交渉上手らしい。すでにカルミアの天秤は完全に傾いていた。
 ならばあとはこちらの条件を飲んでもらえるかだ。

「こちらからいくつか条件を出すことは可能ですか?」

「伺わせてください」

「一つ、副業を認めていただきます。力は尽くしますが、私がいなければ回らない仕事もありますから」

「構いません。もとより無理なお願いをしているのはこちらです」

「一つ、私にも生活があります。密偵生活がどれほどかかるかわかりませんし、その間、無収入というわけにもいきません」

「当然です。働きに見合う給金は最初からお支払いするつもりでいました。他と変わらぬ金額を用意させていただきます」

「わかりました。ならばカルミア・ラクレットがその依頼、お引き受けします!」

「お嬢!?」

 交渉の行方を見守っていたリデロは椅子を蹴散らす勢いで立ち上がる。船長が船を降りるとあっては一大事だ。

「いいんですか!? いくらお嬢でもアレクシーネに潜入ってのは、特別顧問の仕事の範囲を超えてるんじゃ」