「ですが、いかに国王陛下の決定とはいえ、私を認めようとはしない派閥は存在します。私のように経験が浅く未熟な人間が校長を勤めることを認めたくないのでしょう。お恥ずかしい話ですが、私は校長に就任したとはいえ信頼や実績というものがありません。校長が代わったことで学園内の体制も盤石ではなくなっています。おそらくこの機に乗じて、ということでしょうね」

(まさか私の知らないところで故郷の学園が危機にさらされていたなんて!)

 カルミアは愕然としていた。アレクシーネに通ったことはなくても、ロクサーヌに生きる人々にとってその名は希望の象徴なのだ。

「ですが私も陛下から学園を任された身です。陛下の信頼に応えるためにも、そのような輩に屈するわけにはいきません。そこでカルミアさん! どうか密偵としてアレクシーネに潜入していただけないでしょうか!? 私にはもう貴女しか考えられないのです!」

 前述の台詞がなければ情熱的な告白だと思う。しかし続くのは色気の欠片もない話だ。

「校長である私が動けば警戒されてしまう。そこで私は密かに協力者を探していました。そして貴女という素晴らしい魔女と出会った」

「私?」

「カルミアさんが大変優れた魔女でいらっしゃることは短い航海の間にも痛感させられました。加えてその身分に度胸。勝手ながらこれ以上とない協力者だと判断させていただきました。どうかアレクシーネに潜入し、内情を探っていただけませんか!?」

 リシャールの話から推測すると、学園関係者は信用ならないらしい。そこで偶然出会った学園とは無関係なカルミアに目を付けたと。

(なるほど、つまり生徒としてアレクシーネに潜入しろというのね。令嬢として培った教養。船長、そして商人として生きてきた度胸。敵船すらも圧倒する魔法の力。加えて私はラクレット家の娘。まず国の信頼を裏切るような真似はしないという判断かしら。確かに私でもこれ以上ない協力者だと判断するわ)

 カルミアは謙遜しているが、教育ならばアレクシーネと同等のものを受けて育った。生徒として潜入しても怪しまれることはないだろう。令嬢として培ってきたコミュニケーション能力も円滑に学園生活を送らせるはずだ。