昼時だというのに客が訪れず、切ないばかりだった。しかし閑散としていた学食はカルミアの活躍によって生まれ変わった。その結果、現在は厨房にまで学生たちの食事を楽しむ空気が伝わってくる。

(きっと授業の話とか、休日には遊ぶ約束をしているのね。楽しそう。楽しそうだわ。いいなあ……)

 昼休み、生徒たちは空腹を満たすために学食を訪れる。そしてわいわいと他愛もない話に花を咲かせる。
 本来ならカルミアも向こう側にいてもおかしくない年頃だ。そんな光景を羨ましいと感じてしまうのはいつものことだった。

(まさか生徒でもなく学食で働くことになるなんてね)

 何をしているのだろう。
 思い返すたびに落胆していた。

(まあ、想像したことはなかったわね)

 苦い笑いが零れた。
 これでもカルミアは名家の令嬢である。普通は想像することもないだろう。

(はあっ……あの時ちゃんと確認していれば! 契約内容はよくよくよーく確認すること!)

 浮かれていたせいで単純なミスをしでかしたなど言えるわけがない。この失態は墓まで持っていかなければ。そう決意して料理を運ぶことに集中した。

 昼休みも後半に差しかかると、忙しさのピークは越えたと言えるだろう。これからやってくるのは午後一番の授業がない生徒か、担当する授業のない教師たちだ。
 注文されていたすべての料理の提供を終えたカルミアは壁の時計を一瞥する。

(学生たちのピークも過ぎたわね。ということは、そろそろあの人が来る時間かしら)

 するとタイミングよくロシュが顔を出す。

「カルミアさーん、注文入りましたよ! 列が途切れたので、直接伝えに来ちゃいました。はぁ~今日も疲れた~」

 ロシュは大きな瞳が特徴的な少年だ。そんな少年が厨房の入口からひょっこりと覗けば、まるで小動物が顔を出したかのような可愛さである。
 愛嬌のある顔立ちと無邪気な笑顔は、悔やみきれない過去を持つカルミアにとって癒しとなって映った。十六歳にして誠実に仕事をこなすロシュの姿を見ていると、どんな経緯があろうと自分も頑張らなければいけないと奮い立たされている。

「ありがとう、ロシュ。お疲れ様」

 カルミアは注文とロシュの笑顔に、二重の意味を込めて感謝を伝えた。

「この時間ということは、もしかしてあの人?」

「正解です。でもカルミアさん、よくわかりましたね」