その頃、すでに新入生たちの間にはある噂が広がっていた。

 アレクシーネ王立魔法学園、その一角には伝説の学食があるという。学園に危機が訪れた時、その学食に働く従業員たちが危機を救ったというのだ。
 未知なるカレーというメニューもすでに噂の的となっている。

 とりわけその学食には有名な魔女がいるらしい。
 学園の生徒ではないが、魔法を使わせれば右に出る者はおらず、闇に支配されそうになっていた学園を救った救世主とも言われている。

 噂を耳にした新入生たちは、一目彼女の姿を見ようと期待を胸に学園の門を潜った。
 淡いピンクの髪をなびかせ、大きな瞳に好奇心を宿す彼女もまた、その一人だ。
 可憐な容姿に真新しい制服は、立派な魔女になるという強い決意の表れだろう。少女の瞳は希望に溢れている。

 彼女もまた、物語の意思とは関係なく、自らの意思でこの未来を選んだ。

 彼女の物語が始まるまであと少し――

 その時もまた、カルミアは変わらず学食にいるだろう。校長であるリシャールを支え、彼と共に学園の未来を守る存在となるだろう。


 その学食には魔女がいる。
 学園の繁栄に学食の魔女有りと、いつしかカルミアを称えて『学食の魔女』という呼び名が広まっていた。