「そうですね。早くしないと、昼休みになってしまいますよね」

 そうは言っても、やはり予定からは随分と早い時間である。みんながみんな、待ちきれずに足を運んでいるのだ。
 学園に残ったカルミアは、生まれ変わった学食でこれからも働き続けることを決めている。もちろんリシャールのパートナーとしても彼のそばにいるつもりだ。

「でもベルネさんが新しい厨房を気に入ってくれて良かったです。全壊したのでせっかくならと、思い切ってカウンターを採用してみたんですが、賛成してくれてほっとしました」

 全壊した学食は、カルミアの提案でまったく新しいものへと形を変えている。これまではフロアの奥に厨房を構えていたが、出来上がったものをその場で受け取れるような仕組みへと造り替えたのだ。
 学生たちはトレーを手に提供口へ向かい、その場で料理を受け取り会計へ向かう。ロシュの会計台も新たに設置されるようになった。
 フロアの机も長く連なったものから、テラス席のように丸いテーブルをいくつも設置することにした。友達同士、気軽に食事を楽しめるようにとのアイディアだ。
 はからずも注目を集めてしまったベルネは腕を組み、カルミアたちから視線をそらしていた。

「単に効率が良いと思っただけだよ。これからは、新しいことも取り入れていきたいからね」

 ベルネにとっては照れ隠しだろうが、その背中は妙に頼もしく感じる。

「ではみなさん、今日からまた、よろしくお願いしますね」

 しかし『今日から』の単語に目敏く反応したドローナがむっと頬を膨らませた。

「本当、カルミアのお別れ詐欺には泣かされたんだから」

「あれは不可抗力で……っ、もういいです。私が悪かったんですよね! これからは期限なく働かせてもらうので、よろしくお願いします。今後は退職の予定はありません!」

 何度も責め立てられたカルミアが自棄になって叫ぶと、ぱっと表情を変えたドローナが抱き着いた。

「嬉しい! はれて英雄のご帰還ね!」

「英雄って……」

 ドローナの表現はただのカルミアが受けるにしては大袈裟だ。しかしこれには理由があった。
 あの事件の後、目覚めたリシャールがカルミアの功績を公にしたのである。いち早く異変に気付き、その解決策を見出し、事態の収束にあたったと発表されてしまった。
 これによってカルミアは学食勤務の身でありながら、学園では一躍有名になり、校長が認めたことから英雄扱いまでされている。