「幸い私たちはお互いの仕事に理解もあるようですし、この上ないパートナーになれると思うのです」

 これまでお互いにその仕事ぶりを目にしてきた。そして互いにその姿を尊敬しあっていた二人だ。この先も刺激を受け合い、支えあうことが出来るだろう。
 リシャールのアピールには隙がない。まるで畳み掛けるような誘導である。

「偽りだらけの経歴ですが、カルミアさんへの想いだけは本物ですよ」

 非常に物騒な告白である。しかしリシャールの過去を知るカルミアにとっては真摯な告白として伝わっていた。
 リシャールのそばに、そして学食で働き続けることはカルミアの夢でもある。

「私たち、また同じ夢をみているんですね」

 名前さえ知らない頃から同じ夢を抱えていた者同士、この先に見る夢もどうやら同じらしい。
 リシャールは僅かに目を見開き、そして喜びを噛みしめている。嬉しさのあまり、喜びは遅れてやって来たらしい。

「カルミアさんの料理を毎日食べられるなんて、私は幸せ者ですね」

 リシャールは飾り気のない表情で笑う。少し幼く見えるほど、格好を崩してみせた。仕事も立場も関係ない、素顔のリシャールに触れられた気がする。
 視線の先には変わらずリシャールの整った顔が待ち構えている。お粥を食べさせていたのだから距離が近いのは当然だ。互いの瞳に映るのは目の前の人物だけである。この瞬間、お互いの望みを最高の形で叶えていた。
 その瞳に映り続けることがお互いの夢であり、二人の幸せだ。いつしか引き寄せられるように唇は重なっていた。

 幸せに浸るカルミアだが、一つ問題があるとするのなら、すでに感動的な別れを済ませた後である。
 その後各方面に顔を出せば、お別れ詐欺だと盛大に罵られることになった。
 とりわけベルネからの抗議は酷かった。カルミアとは控え目に接していたはずのレインさえ、激しく騒ぎ回る始末だ。感情的になってくれるのは別れを惜しむからこそではあるが、素直にはしゃいでくれるロシュが一番優しい対応だった。

 カルミアとしてもわざとやったことではない。文句を言われるたびに「苦情はこの人までお願いします!」と背後で見守るリシャールに取り次ぎたい気分だった。
 最終的には復帰祝いと、リシャールとの祝福までが寄せられるようになる。