「優しい味がしますね」

「嬉しい……」

 カルミアが返せたのはたった一言で、それは自然とこぼれ落ちていた。
 ずっとこの日を待ちわびていた。もう何度もリシャールは美味しいと言ってくれたけれど、あの時の少年と知ってからは初めてのことだ。

「私、やっと夢が叶いました」

 成長した姿を見てもらいたい。リシャールの気持ちがカルミアには良くわかる。
 かみしめるように言えば、応えるようにリシャールが手を握る。スプーンはいつの間にか皿に戻されていた。

「嬉しいのも、夢が叶ったのも、私の方ですよ」

 頬に触れたリシャールの手がカルミアの輪郭をなぞる。カルミアの存在を確かめるように触れ、何かを探っているようだった。

「やっと手が届くところまで来たのですね。カルミアさんの目に私の姿が映っている」

 確かに覗きこまれた瞳にはリシャールの姿だけが映っている。

「どうか今後も我が校の学食でその手腕を振るっていただけますか?」

 こんな時、どう答えるのが正解だろう。答えは決まっているはずが、高まる鼓動に小さく頷くだけで精一杯だった。

 ラクレット家の特別顧問として生きる道。
 魔法学園の学食で働く道。

 どちらか一つなど、自分には選ぶことが出来ない。ならば両方手にいれよう。

(横暴だった悪役令嬢カルミアらしく、全部手に入れてこその私よね!)

「ありがとうございます。ですが、時々は私のためだけに腕を振るってはいただけませんか?」

 勿論ですとカルミアは微笑んだ。リシャールとの時間はカルミアにとってもかけがえのないものとなっている。またあの日々が続くのであればどんなに嬉しいだろう。
 けれどリシャールはそれだけでは満足出来ないようだ。

「私はいずれ、そのような日々が毎日続くことを夢見ているのです。同じ家で過ごし、カルミアさんが私のためだけに料理して下さる姿をそばで見ていたい。同じテーブルで食事を取ることが出来たなら、どれほど幸せなことでしょう」

「そ、それは!」

(まさかあの伝説のプロポーズ、君の味噌汁が毎日のみたい!? ――ってプロポーズ!?)

 自分がその対象であることを忘れ感動していたカルミアは瞬時に沸騰する。