「大切な娘さんをお預かりさせていただくのですから、きちんと筋を通すのが道理でしょう。貴女という人を知り、ともに過ごすうち、カルミアさんがあの日の少女であろうとなかろうと愛するようになりました。ですので勝手ながら、ご両親に挨拶に伺わせていただきました」

「何やってるんですか!?」

 本当に何をやっているのだろう。
 リシャールに騙される形で学園へやって来て、しかも本人は父に挨拶を済ませているなど、どこまでリシャールの掌の上にいたのか。

「リデロさんたちも応援して下さっています」

「リデロ!?」

 慌ただしさに忘れていたが、カルミアは自分がされた仕打ちを思い出した。

「そうよ、リデロ……て、もしかして私が置き去りにされたのって……」

「はい、私がお願いしました。船に向かったと聞いて、カルミアさんを引き止めてほしいと」

 足止めが難しいと判断したリデロたちは物理的に足を止めさせる戦法を使ったようだ。

「わ、私……私は……」
 
 もはや何を心配していたのかわからなくなってきた。カルミアは気持ちを切り替えるためにも、自らからその提案をする。

「食事にしましょうか、リシャールさん」

「はい。喜んで」

 彼の口からその言葉を聞けるのも随分と久しぶりだった。しかしリシャールはさらに言葉を重ねる。

「安心して下さい。私はカルミアさんが作って下さったものでしたら、どんなものでも美味しく食べられる自信がありますよ」

(それは、どうなのかしら……)

 根負けしたカルミアは準備のために席を離れる。
 するりとリシャールの手が離れ、彼はベッドからカルミアの動向を見守っていた。

 お粥をベッド横のテーブルに置いたカルミアは、食べやすいようにとスプーンを差し出す。しかしここでも衝撃の一言がカルミアを襲った。

「食べさせてはいただけないのですか?」

「はいっ!?」

 そんな風に、当然のように言わないでほしい。こちらは心臓が張り裂けそうなほど驚いているのだ。

「これでも病人なもので」

 リシャールはわざとらしくふらついてみせるが、カルミアの反応を見て楽しんでいるようにしか思えなかった。

(リシャールさんてこんな人だった!?)

 ゲームでは冷酷に。ここでは大人の男性として接していたはずだ。それが告白されてからというもの、遠慮がなくなったように思う。