カルミアの脳裏には愛する船と船員たちの姿が浮かんでいた。

「さあみんな! 船長の帰還よって……船は!?」

 ところが現実は、船が忽然と姿を消していたのである。ここでカルミアの到着を待つようにと伝えたはずだ。

「船がない!?」

 カルミアは必死の形相で、作業をしていた人たちに問いかける。

「あの、ここに停泊していたラクレット家の船を知りませんか!?」

「その船ならちょっと前に出航したぜ」

「船長乗せ忘れてる!」

「なんか、えらい大慌てで出航してたなあ。なんでもお嬢が来る、お嬢が来るって、しきりに叫んでたよ。出航してからも魔法使いが総出になって速度を上げてたぞ」

「私、実は嫌われていたのかしら……いやいや、みんなを疑うなんてどうかしてるわ。どういうことよリデロ! いいわ。すぐに追いついて聞きだしてやる」

 ばきばきと指を鳴らしたカルミアは自身の周囲に風を起こす。
 地を蹴り、いざ空へと跳躍する。まさにその瞬間のことだった。

「待って、カルミア!」

 強い力で引き留められる。今、自分の腕を捕まえているのは誰だろう。

「リシャールさん!?」

 眠り続けていたはずだ。しかも何故ここにいるのか。混乱するカルミアだが、さらに大事件が起こる。
 そのままリシャールはカルミアの腕を引き、背後から抱きしめた。

「目が覚めたら貴女が学園を去ったと聞いて、急いで追ってきました」

 その証拠にリシャールの呼吸は荒い。

「え、あ、あの……」

 当然カルミアは混乱しているが、リシャールも取り乱しているように見える。
 さらりと銀色の髪が視界を霞め、頬にふれてくすぐったい。リシャールの吐息が頬に触れていた。
 ここで振り向けばどうなるだろう。カルミアの鼓動は高鳴るが、密着した状態では筒抜けなのではと急に焦りが湧いた。

「リシャールさん?」

 しかしリシャールからの反応は無い。
 気力が尽きたのか、背後の重みは増していた。

「リシャールさぁん!?」

 カルミアが呼びかけても返事はない。それどころか、どんどん重みが増していき、押しつぶされそうだ。

(もしかして意識がない!?)

 カルミアはリシャールを落とさないよう、ずるずると一緒にしゃがんでいく。力を失くしたリシャールを腕に抱え、港で途方に暮れていた。