カルミアが香水を使い竜を撃退したことはみなが目撃している。もちろんただの香水とは説明しているが、宣伝効果もあったのだろう。竜騒ぎの翌日から、カルミアがオーナーを勤める香水店は異様なまでの盛況ぶりを見せている。
 店長は疲労を感じさせない優雅な笑みで現状を報告した。

「ありったけの在庫を出せとリデロさんが現れた時には驚きましたが、怪我の功名と言うのでしょうか。未曽有の危機を救ったアイテムとして王家への献上も決まり、生産が追い付かないとは驚きました」

 香水はおしゃれとして人々の生活に根強いているが、店に行列が出来たことはない。王家の名がさらに人々の興味を駆り立てたのだろう。

「それに王都では、現在お守りに香水を送るのが流行っているのそうですよ。恐ろしい竜を退けたことから、大切な人を守りたいという願いを込めて贈るのだとか」

「それは素敵な送りものね」

 まさか王都の新しい文化を想像してしまうとは驚きだ。今後も力を入れて商品開発にあたりたい。
 ところでとカルミアは話を変える。もともと店を訪ねたのは彼の様子を見るためだった。

「彼の様子はどう?」

「とてもよく働いてくれています。会計は正確で、何より早い。急な採用のために商品知識はありませんが、これほどの混雑となればレジ専用の店員として最適です。さすがオーナーのご紹介ですね。これから休憩に入る予定なので、会っていかれては?」

 会計のすきを見てレジを抜けたロシュは懐かしい笑顔でカルミアの元を訪れた。

「カルミアさん!」

 ロシュは現在カルミアの経営する香水店で臨時職員として雇われている。それというのもあの場で項垂れるロシュにカルミアが働き先を紹介したことが始まりだった。

「こんにちは。仕事は順調みたいね」

「はい! しっかり働かせてもらってます。でも本当に、大忙しですね」

 ロシュは改めて裏側から見る景色に圧倒される。

「それにしても、カルミアさんがあのラクレット家の人だったなんて驚きましたよ」

「黙っていてごめんなさい。わけあって内緒にしていたの」

「驚きましたけど、色んなことに納得がいきました。カルミアさんはこれから港ですか?」

「ええ。最後に店の様子が気になってね。ロシュにも会いたくて」