「こんなこと、今更私が言っても迷惑だと思っています。わかってはいるんです。でも……」

 レインが告げようとしている想いには心当たりがある。カルミアは思いきって続きが聞きたいと強請ってみせた。

「迷惑なんて思うはずないわ。聞かせて」

「私、寂しいです。せっかく友達になれると思ったのに、もうお別れなんて……」

 カルミアはぱっと顔を綻ばせた。その言葉を待っていたのだ。

「嬉しい! でも、もうとっくに友達よね。それは私が学園を去っても変わらないわ。ねえ、休みが合う時は一緒に遊びましょう? 話したいことや、行きたい場所がたくさんあるの」

「もちろん、喜んで! 私もカルミアに会いたいです。ずっと、友達でいたい」

「次に会った時は友達らしく盛り上がりましょう。お互いにこれまでのことを話すの。それから買い物にって、美味しいものを食べたりね。きっと楽しいわ」

 頷き笑う少女から、憎しみの感情は消えていた。これが本来のレインという少女なのだろう。

「レイン」

 新たな関係を結んだカルミアは彼女の名前を呼んだ。カルミアにはこの絆が生涯続くという予感があった。

「貴女は素晴らしい魔女になるわ。私とリシャールさんが保証する。この私、カルミア・ラクレットの感覚は当てになるわよ! その日を楽しみにしているわ」

「ありがとう。その時は、ラクレット家で雇ってもらえたら嬉しいかな」

「優秀な人材はいつでも大歓迎」

「ふふっ」

 レインの口調もいつしか砕けたものとなっていた。彼女が声を上げて笑うところはを初めて目にした気がする。

「ありがとう、カルミア。何度お礼を言っても足りないけど、私の間違いを正してくれて。貴女のおかげで大切なことに気付けた。確かにカルミアは悪役令嬢。でもカルミアは、違う生き方があるとを示してくれた。ここはゲームの世界だけど、自由に生きてもいいのよね」

「そうね、確かに私は悪役令嬢だった。でもその通りに生きる必要はないわ。ラクレット家だって没落しないし、させない。シナリオなんて関係ないわ。主人公だって、自分の意思に従って生きるべきよ」

「うん。学園のことは私に任せて。あまり役には立たないかもしれないけど、しっかりこの世界を見つめておくわ」

「お願いね」

 学園はレインに任せておけば問題が起こっても駆けつけることが出来るだろう。生徒ではないが、一度は籍を置いた学園だ。未来を知る者としても放ってはおけない。
 最後に豚汁を勧めてカルミアは部屋を後にする。豚汁の感想は後日連絡をさせてもらおう。出航前に寄りたい場所は他にもある。