「不躾というか、横暴でした……私の知っているカルミアは」

 なるほどと納得させられる。レインはカルミアをゲーム通りの悪役令嬢と思っていたのだ。そしてゲームのカルミアならばとっくに部屋へと押し入っているだろう。そういう横暴なキャラクターとして描かれていた。

「でも、その……貴女がどうかは、わかりませんけど……」

 レインはカルミアをゲームの登場人物ではなく、個人として見る努力を始めたらしい。その言葉を聞けただけで嬉しかった。

「私は友達の部屋には許可を取ってから入るわよ」

 そう答えればレインは躊躇いながらも中に入れてくれた。

「そこに座って下さい」

 レインは勉強机の椅子を指し、自分はベッドに腰かける。
 部屋にある家具は机とベッドがほとんどをしめていて、クローゼットには制服が吊るされている。小さな本棚には隙間なく本が並び、整理の行き届いた部屋という印象だ。

「カルミアが来るなんて驚きました……。でもちょうど良かったのかもしれません。私も貴女には聴きたいことがありましたから」

「いいわよ。なんでも訊いて」

 軽い口調で答え胸を叩く。しかしレインは表情を曇らせていた。

「どうして私のことを責めないんですか? そんな、友達みたいなノリで来ると思わなかったので、正直どうしていいか今も戸惑っています。私が何をしたのか、忘れたわけじゃないですよね?」

「もちろんよ。でもリシャールさんが貴女を許すのに、私がいつまでも怒っていたらおかしいと思うのよね。それに私、レインさんが悔やんでいることも、反省していることも知っているわ」

「お人好しですね」

 薄い笑いは皮肉の表れだろうか。レインは自分が転生者だとばれてから、カルミアに対する言葉に遠慮がなくなったように思う。しかしカルミアは怯えられているよりもこちらの方が良いと感じていた。

「何笑ってるんですか」

「別に」

「だからお人好しだっていうんです。リシャールもカルミアも悪役の癖に……。でも、あの学園の人はみんなそうでしたね。謹慎するとは言いましたが、私が逃げ出すとは思わないんですか? 見張りの一人も付けないなんて」

「お人好しねえ。それはどうかしら? もちろん見張らせてもらっているわよ」

「嘘! そんな人どこにもいないじゃないですか!」

「このアパート、私のなの」

 その瞬間、レインは意味がわからないと顔をしかめた。