すると何かを思い出したかのようにオズが呼び止めた。

「そうだカルミア。今度からパーティーで会った時も友達として声を掛けてくれると嬉しいな」

「パーティー?」

 これまでオズと華やかな会場で出会ったことがあっただろうか。

(遠くから見かけたことはあるけれど……!?)

「ま、まさかオズ、私のこと……知ってるの?」

 にやりと口角の上がる口元が答えだ。

「話をしたことはなかったけどね。パーティー会場で見かけたことくらいあるさ。君もだろ? 偽名を名乗っているようだから言わない方がいいのかと思ったけど、最後だしね。言っちゃった」

 悪戯が成功したような顔だが、こちらとしてはしてやられた想いが強い。

(さ、さすが切れ者王子様……)

 自分が彼を見ている時、彼もまた自分を見ていたことを知った。

 カルミアは学園を訪ねて来た時と同じように大きなトランクを持ち上げる。しかし港へは向かわず、あるアパートを訪ねていた。
 呼び鈴を鳴らすカルミアの手からはトランクが消え、その代わりとでもいうように小さな鍋を乗せたトレーを抱えている。
 しばらくして扉から顔を出したレインは訪ねて来た人物を見るなり硬直した。

「こんにちは。お邪魔してもいい?」

「な、ど、どうしているんですか!?」

「聞いたわよ。自分にも責任があるって、オランヌに進言したそうね。自主謹慎と聞いたから、様子を見にきたの」

「だからって、なにもカルミアがこなくても……」

 レインはぼそぼそとカルミアの来訪に抵抗していた。

「みんな仕事があって忙しいのよ。私? 私は学食が営業不可能になったから時間があります。お邪魔してもいいかしら? 差し入れもあるのよ!」

 トレーを差し出せば怪訝そうな顔をされてしまう。やはり歓迎はされていないのだろう。しかしレインは諦めたように言った。

「駄目って言っても入ってくるんですよね」

「私、そんなに不躾に見える?」

 困り顔で問いかければ視線を外されてしまった。