皮肉なことではあるが、今回の事件でリシャールの信頼は確かなものとなった。彼が学園を守ろうとした意思は本物であると、カルミアが報告した結果である。
 リシャールの実力と、学園を守るという強い信念を見せつけられた人々は、明確に彼を支持することを公言する。これでリシャール体制は万全のものとなった。

(この流れで学園を乗っ取ろうなんて人間はいないでしょうね。リシャールさんが不在の時期に行動を起こさないことが何よりの証拠だわ)

 カルミアを英雄として称える準備もあるといわれたが、そちらは謹んで辞退させてもらった。今回のことは自分にも責任の一端がある。
 その代わりというわけではないが、リシャールが校長を勤める体制を強化してもらうことになった。

 こうなっては今一度、カルミアはこれからについて考える必要があった。
 どれほど待てばリシャールが目覚めるのかわからない。しかしカルミアはいつまでも立ち止まってはいられない。

(本当は無事な姿を一目見て、きちんと話をしてから仕事を終えたかったけど……)

 今日を逃せばカルミアの船はまた遠い異国へと出航してしまう。学園も新学期に向けて動きだし始めている。カルミアにも区切りは必要だと、ロクサーヌからの旅立ちを決意した。

 出発前にカルミアは学食があった場所を訪ねていた。

(不思議ね。本来なら営業の支度をしないといけない時間なのに、ベルネさんもロシュも、ドローナもいないなんて)

 この場にいるのはカルミアとオランヌ、そして同じく見送りに来てくれたオズだけだ。
 学食跡地は現在まっさらな更地となっている。無残に砕かれた瓦礫はすでに撤去され、襲撃の痕跡を感じさせることはない。ここに学食が建っていて、学生たちが訪れてくれたことがまるで夢のようだ。

「まさか、学食がこんなことになるなんてね……」

 オランヌがカルミアの心を代弁する。見送りのために同行してくれた彼は酷く残念そうにため息をはいた。
 しかしカルミアは誰よりも嘆いている人物を知っているため、あえて口にすることを控えたのである。

「しばらくは営業停止なんて、寂しくなるわね」

 残念がるオランヌには申し訳ないけれど、その言葉は学園を去ろうとするカルミアを勇気付けていた。自分がここにきたことで残せたものがあると教えられた気がする。

「みんなが無事だっただけで喜ばないとね」

 カルミアは全てを犠牲にする覚悟で学園を守ろうとした精霊たちを尊敬している。
 そんなカルミアの晴れ晴れとした表情を悟りと勘違いしたオランヌは、わざと明るい調子で励ました。