取り残されたカルミアは、ドローナの願いに応えることにする。そうでなくても放っておくことは出来ないだろう。
 悲壮に暮れているロシュの肩を叩いた。

「もしも仕事を探しているのなら、紹介したい仕事があるんだけど」

 カルミアには明日から忙しくなりそうな働き先の心当たりがあった。


 その後、古代の危険生物が蔓延し、校長が倒れた学園には三日の臨時休校が言い渡された。
 今回の事件はオランヌによって上位機関に報告され、事態の収束のために役人が派遣されている。
 無論、唯一の目撃者であるカルミアは事情聴取を要求され、そのまま王城へと連行されていた。
 いつの間にか、ドローナによって唯一の当事者とされていたのだ。一人は倒れているため、あの時目にしたものを語れるのはカルミアしかいない。

 到着したカルミアが連れていかれたのは小さな部屋で、恭しくも扉が開かれると、なんと国王陛下が待ち構えていた。
 そこでカルミアには新たな試練が与えられる。国家最高権力者の前で名前を名乗ることを求められたのだ。嘘はつけまい……。

「カルミア……ラクレットです」

 その瞬間、室内には動揺が広がった。

 何故ラクレットの令嬢が学食で働いて?

 言葉はなくても伝わってくるものがある。こうなりたくないからこそ、身分を隠していたのだ。

「何故、ラクレット家の令嬢が学食で働いて?」

 問われたからには答えなければならない。しかし学園の危機を公にするわけにもいかず、予め考えておいたシナリオを披露することにした。

「我がラクレット家は新たに食品事業を展開するため、独自にカレーという食品の開発に着手していました。そこで学食という場を借り実際に提供することで、現場の意見を集めていたのです」

「ご令嬢自ら?」

「食品事業は家庭内にとどまりません。今後は新たに学食の経営も視野に入れてみたいと思っていたところなのです。学園となれば歳が近い私の方が好都合。私はラクレット家の特別顧問として、事業拡大のために率先して市場調査にあたっていたのです。もちろん校長先生の許可は得ていますわ!」

「な、なるほど……」

 カルミアは見事に周囲を納得させていた。
 しかしこれによってカレーの存在は販売前に王家の知るところとなり、ラクレット家がそこまで重要視する品として興味を集めてしまう。よって早急に披露することを求められてしまった。