不思議に思ったカルミアが口を開きかけた時、まるでこの世の終わりのような絶叫がこだまする。

「い、今の声、ベルネさん!?」

 カルミアは走り出すが、背後ではドローナがやはりのんきに声をかけていた。

「あ、カルミア、急がなくてもあれは多分……」

 多分、なんだろう。ベルネに何かあったのだろうか。いずれにしろ、尋常な叫びではなかった。ドローナに何を言われようと、無事な姿を見なければ安心は出来ない。
 たどり着いた学食で、カルミアは信じられない光景を目にする。

「え……」

 あるべき場所に学食は存在しなかった。
 学食が建っていた場所はただの空き地と化している。無残に崩れ落ちた瓦礫の山が散乱し、それを前に崩れ落ちているのがベルネだった。

「あらあら、ついに全壊しちゃったのね」

「全壊!?」

 ドローナはとっくに知っていたようだ。特に動揺することもなく、ショックのあまり抜け殻となったベルネを揺さぶっていた。

「もぉベルネ! いい加減元気出しなさいよ。あれだけ寄ってたかって総攻撃を受けたら学食の一つや二つ、倒壊するに決まっているじゃない!」

 ドローナの呼び掛けにさえ反応はない。

「あたしの、あたしの城が……」

 ひたすら同じ言葉を繰り返していすだけだ。
 カルミアの背後ではもう一人、誰かが崩れ落ちる気配を感じた。

「僕、明日からどうすれば……」

 明らかに営業は不可能である。職を失ったロシュが膝をついていた。

「ほらベルネ、早く立ちなさい! 私たちには仕事が残っているんだから」

 仕事と聞いてカルミアは思わず手伝いを申し出る。

「何かやる事があるなら私も手伝うわ。こっちの仕事は、当分無理そうだから」

「心配してくれてありがとう。でも、これは私たちにしか出来ない仕事よ。気持ちだけで嬉しいわ。私のことはいいから、あの子をなんとかしてあげて?」

 ドローナからも心配されるロシュの落ち込みようである。
 ひらひらと片手を振りながら、もう一方の腕でドローナはベルネを引きずっていった。あの細い体のどこに力があるのか疑問である。