リシャールが忘れてしまったのなら、今度は自分から誘おう。

「リシャールさん。また一緒に食事をしませんか?」

 どうかこの手をとってほしい。思い出してほしい。カルミアは祈るようにリシャールを見つめた。
 
「貴女は……」

 攻撃のために掲げられていたリシャールの腕がだらりと落ちる。

「リシャールさん?」

「私は……違う、これはっ……」

 自問を繰り返すリシャールは、カルミアの姿など目に入っていないようだった。

(これってもしかしなくてもチャンス?)

 リシャールのことは心配だが、カルミアは重大な役目を背負っている事も忘れてはいない。目の前に隙が転がっているのなら、全力で指摘させてもらう。そういう人間だった。 
 カルミアは扉だけを見据えて走り出す。背後で新たな竜が生まれ攻撃の体勢に入ろうと、この機会を逃すわけにはいかない。
 わき目もふらず扉へと走る。
 リシャールの横を通り過ぎた時、僅かに彼と目が合ったように思うが、攻撃が放たれることはなかった。

「せえのっ!!」

 どれほど重いのかと想像していたが、軽く触れるだけで扉は閉じていく。とんだ力み損だ。
 これで新たな竜が生まれることはなくなった。放たれた竜も時が経つにつれて邪悪が薄まり、形を維持することが出来なくなるだろう。
 しかしこの場に残る竜たちは、カルミアこそが自分たちの邪魔をした悪と認識している。暗い瞳にカルミアと捉え、せめて形が崩れる前に一矢報いようと牙を剥く。
 その背後ではリシャールも魔法を放とうとしていた。

(これはひとまず防御!)

 カルミアは迎撃よりも身を守ることを選ぶ。全ての竜を一掃することは可能だが、リシャールの魔法が読めない以上、迂闊な攻撃は避けたい。
 眼前に結界を張り、襲い来る衝撃に備えた。
 しかし結界が揺れることはなく、竜たちは次々に倒れていく。

「リシャールさん?」

 リシャールの魔法はカルミアではなく、竜に向けて放たれていた。額に手を当て、苦痛の表情を浮かべるリシャールは膝をつく。

「大丈夫ですか!?」

 駆け寄ったカルミアはたまらずリシャールを支えていた。
 
「助けてくれたんですか? でも、どうして……」

 まるでカルミアを助けるような行動だ。問いかければ苦痛に歪む表情に優しさが垣間見える。