カルミアの料理を認めてはいるが、ベルネはドローナほど言葉や態度に表すことはない。そんな彼女が褒めるような発言をすることが珍しく、カルミアは驚きからじっと見つめてしまった。

「なっ、なんだい!?」

 視線に気付いたベルネは同時に自らの失言に思い至る。強い口調でカルミアを威嚇するが、すでに手遅れだった。

「ふん! まあ、なんだ。何か変な物でも食べたんじゃないのかい。腹が痛かったとかね! と、とにかくだ。今日はもう帰りな。そんな顔で働かれても迷惑なんだよ」

「ほら、ベルネも心配しているみたいだし。今日は帰って休みなさい」

「誰が心配なんか!」

「はいはい。ベルネは素直じゃないわね。素直にカルミアが心配でさっきまで落ち着かなかったって言えばいいじゃない」

「あ、あたしは別に!」

「ならカルミアが戻ってくるまでうろうろしてたのはどうして? いつもは置物と間違えるくらいじっとしているじゃない」

「黙りな!」

 賑やかなやり取りが聞こえる。けれど二人ともカルミアの決意を知っているはずだ。
 カルミアが学園から去れば学食がどうなるのか。加えてリシャールが学食への態度を一転させたことで、今後この場所がどうなるのかもわからない。ドローナたちにだって不安はあるはずだ。
 迷うカルミアの手をドローナが優しく握る。

「ね? 今日は疲れたでしょう。だからまた明日、これからのことを話し合えばいいわ」

 ドローナの優しさに、消えたはずの涙が浮かぶ。

(でも私は、それでいいの? 二人に甘えて、このまま逃げ帰るような私を、私はカルミア・ラクレットだと誇れる?)

 自身に問いかけておきながら、答えはとっくに出ている。
 ここで泣き帰るような自分を、自分は決して認めるわけにはいかない。

(確かにリシャールさんから美味しくないと言われて悲しかった。でも、だから何? それがどうしたっていうのよ。ここで諦めるなんて私らくしない。今までだってずっと、何度だって諦めなかった)

 最初から料理が出来たわけじゃない。何度も失敗を繰り返し、リデロには面と向かって不味いと言われた。その度に泣き、いつかぎゃふんと言わせてやると誓ったはずだ。そんな小さな努力を忘れていた。