礼拝堂を後にしたカルミアは迷わず学食に向かい、静まり返ったフロアを通って厨房へと顔を出す。
 最初にカルミアに気付いたのはロシュで、目が合えばぱっと笑顔を浮かべて駆けつけてくれた。

「お帰りなさい!」

 何事もなかったかのように出迎えてくれる。それがロシュの優しさだった。カルミアが口を開こうとすれば、ロシュは自身の指を唇に当てて見せる。

「戻ってきてもらったところ悪いんですけど、今日はもうカルミアさんの仕事はありませんよ。僕がぜーんぶ終わらせちゃいましたから。いつも働き過ぎなので、今日はゆっくり休んで下さいね。では、僕は失礼しまーす!」

 カルミアが口を挟む隙を与えずロシュは走り去っていく。
 ロシュがいなくなると、入れ違うようにドローナから強く抱きしめられていた。

「カルミア!」

 よほど心配させてしまったのか、ぎゅうぎゅうと抱きしめるドローナの力は強いものだった。
 ドローナの肩越しには定位置でお茶を啜っているベルネの姿が見える。そこだけはいつもと同じようで妙な安心感があった。

「良かった戻ってきてくれて! ベルネから聞いたわ。リシャールに酷い事を言われたって。もう信じられない! あんな人が校長の学校なんて私も辞めてやるんだから!」

 ベルネが話したのか、口ぶりから察するにフロアで起きたことは全て耳に入っているようだ。しかしこの状況を作り出した張本人のベルネは落ち着き払っている。

「まったくうるさい女だねえ。あんたが本人より騒いでどうするんだい。少しは落ち着きな」

 抱擁を解いたドローナはベルネに向けて猛烈な抗議の姿勢を示した。

「だって、ベルネは悔しくないの!? あたしたちのカルミアの料理が不味いって言われたのよ! リシャールったらどうかしてるんじゃない? こんなの許せないわ!」

「それは、あたしだって信じられないが……」