フロアが静まり返ると、しばらくして入れ違うようにオランヌが入ってくる。きっとどこかでリシャールが食事をするのを見守っていたのだろう。

「ねえ、カルミア。あの人もう帰るみたいだけど、ちゃんと食べてくれた? ああ、オズなら授業に行かせたわよ。あたしはほら、友達として二人のことが心配で……って、カルミア!?」

 焦りを露わにしたオランヌの声で我に返る。
 カルミアはそっと自らの頬に手を伸ばした。

(私、泣いてるの? リシャールさんが喜ぶ美味しい物を作れなかった自分が、リシャールさんの期待に応えられなかった自分が……私、自分が情けないんだ……)

 早く何でもないと笑わなければ。そうでなければオランヌに心配をかけてしまう。それなのに、涙はあとからあとから溢れてくる。この場所にいることは今のカルミアにとって苦痛でしかなかった。

「ちょっとカルミア!?」

 気付けばオランヌの静止を無視して学食を飛び出していた。心配する彼にさえ、何も言うことは出来そうもない。
 学食を飛び出し行き場を失っていたカルミアは礼拝堂へと駆け込む。厳かな雰囲気に包まれ、アレクシーネの姿を模した彫刻が安置されている施設だ。
 寮の部屋では誰かが訪ねてくるかもしれない。校舎では生徒たちに見つかってしまうと考えた結果である。

「私、何してるんだろ……」

 リシャールには迷惑をかけて、みんなには心配をかけて。
 一人になって頭を冷やすと、後悔ばかりが浮かんでくる。

「もっと出来る事があったはずなのに、結局は何も出来なかったのね」

 もともと礼拝堂は式典などの儀式で使われるほかは生徒の相談場所としても解放されている。ついつい懺悔のような言葉を零してしまうのはアレクシーネ像の前だからだろうか。

「でも、何よりみんなに心配をかけたままは、いけないですよね」

 カルミアは自分を見下ろすアレクシーネ像に向けて微笑みかけていた。
 答えを望んでいたわけではないが、言葉にしたことで少しだけすっきりしたように思う。

「――よしっ! ありがとうございました」

 アレクシーネへと一礼したカルミアは自らの居場所に戻ることにする。

『カルミア――』

 踵を返すと、ふいに誰かに呼ばれたような気がした。とっさに振り返るが、そこにあるのは沈黙するアレクシーネ像だけである。