「わかりました……。けど学食はどうなるんですか? やっと生徒たちにも認めてもらえて、賑わいを取り戻したんですよ!」

 リシャールの問題が解決したというのなら、それは円満な幕引きだ。けれど学食としてはまだカルミアを失うわけにはいかない。カルミアという存在が消えれば瓦解しかねないだろう。
 しかしリシャールは非常な決定を下す。

「そのようなものは最初から不要だったのです」

「不要って、学食がですか?」

「食事など各自で済ませておけばいい。このような場所を学園内に設けておくことこそ無駄であると私は常々考えていたのです」

 冷めた眼差しがカルミアを射貫く。威圧感を放ち、そこに優しさなどは存在しない。触れれば傷つけられてしまうほどの恐ろしさを秘めていた。

(私、このリシャールさんを知っている。これこそが私の知るラスボス、リシャールだわ)

 その姿はかつてゲームで目にした本当のリシャールと酷似していた。
 ゲームと同じリシャールであるのなら、彼がカルミアの意見など聞くはずがない。何を告げたところで切り捨てるだろうと諦めが生まれていく。

(優しかったのは演技だったの? 最初から全部……嘘、だった?)

 何を信じればいいのか、とっくにわからなくなっている。だからカルミアは一つだけ、引き下がりそうになる自分を鼓舞して問いかけた。

「一つだけ聞かせて下さい」

「はあ……まだ何か?」

「いつも我慢して食べていたんですか。最初に出会った時から、美味しいと言ってくれたのは全部……嘘だったんですか?」

 言葉にするだけで声は震える。否定してほしいとカルミアは祈るようにリシャールを見つめた。

「最初……もう覚えてはいませんが、きっと私にとってそれは苦痛な時間だったのでしょう。こうして席に押し込まれ、食べたくもない物を強要されていたはずです。ああ、こういえば鈍い貴女も理解出来ますか?」

 リシャールは見せつけるように卵焼きを口に運ぶ。
 そして一口食べると何食わぬ顔で告げた。

「美味しくありません」

 それはカルミアにとって、この学園に来てからの日々が崩れ去るようだった。

 リシャールは話は済んだとばかりに席を立つ。振り返りもせずにカルミアを残して出て行ってしまう。