「この通り副船長の了承も得たことですし、歓迎します。リシャールさん。私が引き受けた以上、荒っぽいことも多少はあるかもしれませんが、安全な船旅をお約束します」

 カルミアは交渉の成立に握手を交わした。
 そうして改めてリシャールの姿を確認すると、あまりにもこの船で浮いて見える。
 集まってきた船員たちはリデロも含めて船を動かすことを目的とした軽装ばかり。その点リシャールが着ているのは皺ひとつない上質なスーツだ。襟元に施された刺繍は繊細で、おそらく彼のために作られたオーダーメイドだろう。そして華やかな組み合わせにに負けることなく着こなす顔の良さである。

「これが豪華客船だったらリシャールさんに似合う船でしたね」

「とんでもない。私はこちらの船が気に入っていますよ。素敵な船長に、頼もしい船員のみなさんですね」

「嬉しいことを言ってくれるんですね。乗船代はおまけしませんよ?」

「ご心配なく。これでもしっかり稼いでいますので」

(王立魔法学園の給料……)

 カルミアは邪な想像を急いで掻き消した。

「え、ええと! 歓迎するとは言いましたが、一応忠告を。私の船でおかしな気は起こさないことをお勧めしますわ。お褒めにあずかった船員たちはみな勇敢な者ばかり。加えて私も例外ではないことをお伝えしておきます」

「貴女が?」

「俺らの船長、頼もしいだろー」

 リデロはまるで自分のことのように胸を張る。自慢気な態度が嬉しくもあるが、初対面の相手を前にしては気恥ずかしさが勝った。
 けれどリシャールは何を思ったのか嬉しそうにしている。

「素晴らしい出会いに、私は海の女神に感謝をしなければいけませんね」

 どうやら自分の乗る船が安全であることを喜んでいるようだ。

「そうそうお嬢は凄いんだぜ! なんてったって英雄の子孫だからな!」

「それ、凄いのはご先祖さまで私じゃないから」

 不貞腐れたように呟くカルミアの側では考え込んでいたリシャールが答えに気付いたらしい。

「ラクレットというのは、もしやあの英雄譚の?」

「そうそう、お嬢はあのランダリエの子孫なんだぜ!」