オランヌたちが去り、ロシュたちが厨房へと下がったフロアには、正真正銘リシャールと二人きりだ。秘密の話をするには都合が良いが、今日は少しばかり空気が重い気がする。リシャールは無言で席に着いたきり、カルミアと会話をするつもりはないようだ。

「今日は来て下さってありがとうございます」

「貴女に礼を言われることではないと思いますが」

 意を決して話しかければ事務的に返される。つんと答えるリシャールには違和感が募った。
 自分は機嫌を損ねてしまったのだろうか。それとも無理やり連行されたから機嫌が悪いのか。判断に困るカルミアは正直な気持ちを告げる。

「でも私はリシャールさんが来てくれて嬉しかったんです。話したいこともありましたから」

「話?」

「実は例の件でお話が。でもまずは、食事からですね」

 カルミアは下げていたバスケットを持ち上げる。

「私が作ったお弁当なんですけど、一緒に食べませんか?」

 カルミアがうがいを立てるとリシャールは盛大にため息を吐いた。

「成程。こちらを食べなければ話はしないと、そういうわけですか。ならば仕方がありませんね」

「いえ、そんなつもりじゃ!」

「いいから早くしてもらえませんか? オランヌにも食事をしろと付き纏われて迷惑していたところです。望み通り食べて差し上げますよ」

 リシャールは苛立ちを隠そうともせずにカルミアを急かす。カルミアは様子の変わったリシャールに戸惑いながらも手早く弁当を広げていった。

「どうぞ……」

 カルミアは不安を感じながらも弁当を勧める。
 するとリシャールは無言で手を伸ばして食べ進め、沈黙に包まれたフロアには気まずい空気が漂っていた。しかしそれもカルミアが一方的に感じているだけで、リシャールは気にもとめていない。

「あの、卵焼きなんですけど。好みの味付けがわからなかったので、塩と砂糖の味付けなんです。どうでしたか?」

「どうと言われましても特に思うところはありませんが」

「え?」

「私にとって食事は栄養補給にすぎません。味など気にする必要はないでしょう」

 なら、いつも美味しいと言ってくれたのはどうして?

 溢れそうになる疑問はリシャールからの言葉で遮られていた。

「ああ、そうでした。一つ貴女に言わなければならないことがありました」

 不意に手を止めたリシャールは改まってカルミアと向き合う。
 緊張からカルミアの表情は強張るが、リシャールは何気ない口調のまま話を続けた。

「貴女はこの学園にいるべきではない。一刻も早く私の学園から出て行ってもらえますか」