しかし最初のやり取りを見られている時点で手遅れなのではとカルミアは思う。
 カルミアが呆れた眼差しを送るうちに、青年は自ら要件を口にする。

「お騒がせしてすみません。実はリデロさんに相談をさせてもらっていたところなのです」

 青年がいきさつを語り始めると、そうそうとリデロが加わった。

「そうなんですよ。なんでもこいつ、ロクサーヌ行きのチケットを無くしたらしいんです。それでうちの船がロクサーヌ行きだって知って、乗せてほしいらしいんですよ」

 リデロが簡単に事情を話し終えると、青年は間違いがないことを語った。
 話の意図が読めたカルミアはなるほどと納得する。ところが青年の身分を聞くなり驚きを隠せなくなった。

「私はリシャール・ブラウリーと申します。ロクサーヌ王国にてアレクシーネ王立魔法学園の校長を勤めさせていただいております」

「アレクシーネってあのアレクシーネ!?」

 カルミアは驚きに声を荒げるが、リシャールは変わらずおっとりとして答えた。

「我が校をご存じで?」

 リシャールの態度に焦れたリデロが興奮気味に割り込んだ。

「ご存知に決まってるっての! 魔法教育の最高峰だろ!? 知らない方が珍しいって! しかも校長ってまじかよ!?」

 驚きは全てリデロが代弁してくれた。
 カルミアたちが驚愕している理由はなにもアレクシーネ関係者が珍しいという理由だけではない。青年と形容することから察するに、このリシャールという青年、随分と若いのだ。
 無論、若くして校長の座に就いた者もいる。いずれにしろ、リシャールは相当の実力者ということだ。
 そんな気配をおくびも見せず、リシャールは困り顔を浮かべている。

「私は出張のためこの国を訪れていたのですが、リデロさんにお話した通り、王国行きのチケットを紛失してしまいました。もう一度買い直そうとしたのですが、あいにく満席となっておりまして」

「この時期はどこも人の移動が盛んになりますから。ロクサーヌへ向かうのでしたら、なおさらでしょうね」

 ロクサーヌは魔法大国の名も相まって、物や人が集まる大陸の中心部となっている。出航間際ではチケットの手配は間に合わないだろう。