「もちろん私が進言することは可能ですが、現場で働いているカルミアさんの方が予算についても精通しているでしょう。カルミアさんでしたら交渉も得意でしょうからね」

 つまりカルミアに学食の必要性と、予算の増加を訴えてほしいということらしい。

(さすがよくわかっているじゃない。確かに交渉は得意……はっ!)

 リシャールに見つめられたカルミアはその瞳の奥に隠された真意を見抜いた。

(これはリシャールさんからの提案ね。学園教師が一堂に介す。すなわち学園乗っ取りを企てる犯人がいる可能性が高い。その人物の雰囲気、発言から、私に探れというのね。まさかリシャールさんはそこまでみこして私を学食に潜入させたってこと!?)

 リシャールの完璧な計画を目の当たりにすると、生徒ではなかったことに不満を抱いた自分が急に恥ずかしくなる。

「わかりました。任せて下さい」

 必ずや犯人の手掛かりを入手して見せると、カルミアは決意に満ちた眼差しで訴えた。

「頼もしいですね。それではまた明日、学食に伺わせていただきます」

「はい。また明日、学食で」

 それはカルミアの仕事への監視か。それとも純粋に食事を楽しむためにか。叶う事なら後者の方が嬉しいと思うカルミアであった。

 仕事を続けるリシャールを案じながらもカルミアは寮へ戻ることにする。長いをして邪魔をすることは避けたかった。
 しかしその途中、見覚えのある後ろ姿に出会い、思わず声を掛けていた。

「レインさん?」

「ひっ!?」

 カルミアより前を歩いていたレインは盛大に肩を揺らし、振り返ることなくそのまま逃げ出す体制に入ろうとした。

「待って! 驚かせてごめんなさい。私、カルミアよ!」

こわごわと振り返るレインは幽霊と出会ったような怯え方だ。カルミアの顔を見たところで彼女の憂いが晴れることはない。むしろカルミアを不信がっているようだ。

「わ、私、何かしてしまいましたか?」

 涙目で問いかけられたカルミアはとっさに手を振って無害をアピールする。