(私だけはリシャールさんの孤独を知っている。もしかして、それでよく私のことを気に掛けてくれたの? 私だけはリシャールさんの味方だから、少しは心を許してくれているのかもしれないわ。だとしたらその期待に応えないと!)

 心を改めさせられたカルミアは自然とリシャールのことを誘っていた。

「リシャールさん。私、また作りますね。その時は時間が許す限り一緒に食べましょう。私も誰かと一緒に食べる方が好きなんです」

「はい、喜んで。いつでも大歓迎ですよ」

 喜んでと言いたいのは自分の方だとカルミアは思う。誰かが自分の食事を楽しみにしていてくれることが嬉しくてたまらないのだ。
 もちろん学食では誰もがカルミアの料理を楽しみにしている。けれどリシャールに求められると、それとは別の喜びが溢れるようだった。(私、リシャールさんに美味しいと言ってもらえることがこんなにも嬉しいのね)

 自分の心を理解したカルミアは、すがすがしい想いでリシャールを見つめる。

 ところがリシャールの顔つきは神妙なものへと変わっていく。その表情はいつか船の上で見たものと重なるようだった。

「カルミアさん。この機会に、実は貴女にお話したいことがあるんです……」

「な、なんでしょう」

 もうカルミアは騙されない。上擦りそうな声を抑え、ひきつりそうな口許をこらえる。

(大変な要求をされそうな予感がする……)

 リシャールの申し出でこうなった身の上としては不安が拭えないだろう。

「実は職員会議に出席していただきたいのです」

「は?」

 想像以上に突拍子もない提案だった。あまりの驚きに真顔で受け止めたほどである。
 頼む相手を根本的に間違えているのではないだろうか。カルミアは真っ先にそう思った。

「ああ、どうかご安心下さい。学食の存続については会議を開くまでもなく決定しているんですよ。私たち職員も大いに利用させていただき、生徒たちからの人気も強い。存続については満場一致、異論ありません」

 どうやらカルミアの奮闘により、学食は存続することが決まっているらしい。これで密偵としての立場は安泰だ。

「しかし問題はその予算にあります。次の会議で来年度の予算について話し合うことになっているのですが、カルミアさん。潤沢な予算、欲しくはありませんか?」

「欲しいです!」

 カルミアは自分でも驚くほどの速さで即答していた。たとえ一時的な勤務だとしても、予算は多いに越したことはない。
 その反応にリシャールも満足そうである。