そして一口食べると、そのまま無言で食べ進めていった。

「驚きました……。どうやら私は空腹だったようですね。柔らかなパンに卵とベーコン、それからチーズの相性がいいですね。身体に染みわたるようです」

 続いてリンゴジャムを使った物に手が伸びる。

「こちらがカルミアさんの作って下さったジャムなのですね。リンゴの食感が良いアクセントになっていますし、甘すぎずに食べやすい。とても美味しいです」

 言葉通り、リシャールは次々と笑顔で平らげていく。作りすぎたかもしれないと感じていたが、どうやら完食してもらえそうだ。

「ご馳走様でした。おかげで残りの仕事がはかどりそうです」

「役に立てたのなら嬉しいです。あの、私がこんなことを言うのは迷惑かもしれませんが、きちんと食事もとって下さいね。リシャールさんが倒れたら悲しむ人がたくさんいるんですから。オランヌにも怒られますよ」

 するとリシャールは深く考え込むような素振りを見せる。
 やはり余計なお世話だったかもしれないと訂正しかけた時、ゆっくりとリシャールが口を開いた。

「先ほどから気になっていたのですが、カルミアさんは随分オランヌと仲が良いようですね。このリンゴもオランヌからもらったと伺いました」

「そうですね。顔を合わせれば気さくに声を掛けてくれますし、私としても話しやすい方だとは思っています」

「そうですか……」

 またしてもリシャールは考え込んでしまう。何か問題でもあったのだろうか。
 そこでカルミアは考え至る。

(はっ! そ、そうよね……学園の人間は信用出来ないみたいだし、私ももっと警戒すべきよね!? きっとリシャールさんの中ではオランヌも容疑者なんだわ!)

 だとしたら仲良くしすぎるのは問題大ありだ。

「すみません! 私が軽率でした。これからはオランヌにも警戒して接します!」

「え? あ、いや、そこまで気を張っていただかなくても」

「いえ、私が甘かったんです。もっと自覚を持つべきでした」

 攻略対象としての人となり、その後の人生までを知っているカルミアは、オランヌだからと疑うことを忘れていた。
 けれどリシャールにとってはなんの保証もない相手だ。密偵としての自覚を持てと言われているのだろう。

(でもそれって、リシャールさんは寂しいわよね……)

 学園では誰のことも信用出来ないということになる。
 けれどこの学園でたった一人、カルミアだけは例外なのだ。