部屋に戻ったカルミアは早速ジャム作りに取り掛かる。
 皮をむいたリンゴは薄く刻み、色が変わってしまわないよう塩水につけておく。
 リンゴの水を切り鍋へと移し、砂糖とレモン汁を加えて火にかける。

 ヘラで混ぜながら煮詰めている間、カルミアが考えていたのはこれまでのことだ。

(今のところ、これといった問題は見つかっていないのよね。確かに若くして校長を任されたという点でリシャールさんを不安がる声はあるけど、行動に起こすほど過激な状態でもないのよね)

 リデロたちには秘密裏に外から学園を探らせている。カルミアもこれまで培ってきた人脈を使って探りを入れてはいるが、これといった動きは見つかっていない。
 黒幕という点で怪しんでいたドローナも大人しく、リシャールとの繋がりも薄いときている。

(もしかしてこの状況、ゲームから結構逸れていってる? まあ、一番シナリオから逸脱しているのは私だと思うけど)

 普通、悪役令嬢は学食で働いたりはしないだろう。

(でも私はシナリオを壊すって決めたんだから、これでいいのよ。ラクレット家の没落なんて絶対に認めない。名家の出身だが実家は没落。プライド高く横暴な上級生なんて言わせないわよ!)

 次の入学式まではあと半月をきっている。ゲームの運命通りに進むのなら、もうすぐ主人公が入学してくるはずだ。
 来期が始まった時、自分はどうしているのだろう。ぼんやりと想像してみるが、おそらくこのままでは確実に仕事は延長コースである。

(誰が学園を乗っ取ろうとしているか、まだわからないものね。せめてリシャールさんこそが校長に相応しいって体制が出来上がれば安心なんだけど)

 けれど一つだけ確かなこともある。

(たとえどんな結末になったとしても、私はいずれこの学園からいなくなる)

 カルミアが主人公の『上級生』になることはあり得ない。それだけは確かなことであり、ゲームになんらかの影響は与えているはずだ。