「どうって、特に何も」

「それだけ?」

「まあ、これまでたくさんの人間を見てきた立場から言わせてもらうのなら、そこそこ優秀な校長ってところね」

 返ってきたものはあくまで一般的な評価のみである。

(つまり、あのリシャールさんは操られてはいない?)

 しかしカルミアにとってもリシャールは掴みどころのない存在であり判断は難しい。

(私はリシャールさんのことを知らなすぎる。といっても校長先生にまで学食で働いてもらうわけにはいかないし、このところゆっくり話す機会もないしね……)

 ロシュから注文の連絡が入ったのはそんな時だった。時間からしてリシャールだろうか。

「ごめんドローナ、注文が!」

 カルミアは料理を手にフロアに向かう。するとリシャールは、すでに提供台まで料理を取りにきていた。
 待ちきれないほど空腹だったのか、カルミアの姿に気付くと嬉しそうに微笑んでいた。
 さらりと流れる髪から覗く耳には、やはり飾りがない。

「あの、リシャールさん」

「ちょっとカルミア!」

 料理を置くと、体当たりのような勢いで背後からドローナに抱きつかれてしまう。

「運び終わったのなら早く教えてちょうだい!」

 するとカルミア同様驚きに目を見張るリシャールは、ドローナへと話しかけていた。

「これはドローナ先生。学食で働き始めたと伺いましたが、本当だったのですね」

 揃いの制服に身を包んだドローナは、見せつけるようにカルミアの腕へと絡み付く。

「そうよ! 私はこれからカルミアに料理を教わるの。忙しいのよ、校長先生。ねえ、カルミア!」

「う、うん……?」

 ぐいぐいとドローナに引っ張られながら、カルミアは厨房へと連行されていった。
 前にはリシャール、後ろにはドローナ。悪役たちに挟まれた悪役令嬢はされるがままである。

(ゲームでは交流のなかった悪役(わたし)たちが顔を揃えるなんて不思議ね。ゲームを知っている人が見たら何か悪巧みでもしていると勘違いされそうだわ)

 それほどまでに悪役が勢揃いしてしまった。悪役たちは何故か学食に集まるらしい。

(でもこのドローナは、悪役になったりしないと思う。そう思いたいだけかもしれないけど、やっぱり信じていたいわ。だってもう、同じ学食で働く仲間なんだから)

 いざとなれば自分がドローナの計画を阻止してみせる。その覚悟で彼女を仲間に迎え入れたのだ。
 これでひとまずドローナの問題はクリアしたと言えるだろう。となれば次はリシャールの動向が気にかかる。