飛び降りたカルミアは真っ逆さまに落下しているが、着地の寸前でふわりと身体を浮かせ、スカートの裾を整えながら華麗な着地を披露した。

「何があったの?」

 そして何事もなかったかのように話を進めようとしたのだが、リデロは流されはしなかった。

「お嬢! そういうのはお客様の心臓に悪いんでやめて下さいって、何度も言ってるじゃないですか!」

「ちょっと! 人前では船長と呼ぶようにって、私こそ何度も言っているじゃない。ただでさえ性別と年齢のせいで侮られやすいのよ。最初が肝心なんだから!」

「あ、すいません。俺にとってカルミアお嬢様は永遠にお嬢なもんで……」

「その台詞は十年くらい後にまた聞かせてもらうわよ」

「はあ……って違う!」

 リデロは自分が危うく言い含められそうなことに気付いた。

「あのですね、船長! 普通の人間は身体を浮かせられるほどの魔法は使えないんですよ。お嬢は自分の規格外な実力をいい加減自覚して下さい。俺らは慣れてるからいいですけど、一般人には刺激が強すぎるんです!」

 船長と副船長、まるで兄妹のような戯れはこの船にとっては日常だ。船員たちはいつものことかと微笑ましく見守っているが、唯一異質な存在である彼は驚きを口にせずにはいられなかったらしい。

「貴女が、船長でいらっしゃいますか?」

「あ……」

 カルミアとリデロはそろって振り返る。
 二十代ほどと思われる銀髪の青年が唖然としていた。美しい瞳を見開いていることから、リデロの言うとおり刺激が強すぎたのかもしれない。あるいは魔法が希少な土地の出身だろうか。
 ただし言い訳をさせてもらえるのなら、船長としていち早く問題に対処しようと至急駆けつけたのだ。
 改めて顔を見ると、カルミアは既視感に襲われる。この人をどこかで見たことがあるような、知っている気がするのだ。
 しかしまずは質問よりも仕切り直しが先決である。

「こほん。失礼しました」

 カルミアは姿勢を正し仕事用の顔に切り替えた。

「いかにも私が船長のカルミア・ラクレットですわ」

「そして俺はカルミアお嬢様、じゃなかった。船長の頼れる右腕、副船長のリデロ・フェリーネだ!」

「どうしてリデロまで名乗るのよ」

 しかもノリノリで。

「最初が肝心って言ったのはお嬢だろ。ばしっと決めとかないとな」