(ドローナもベルネさんと同じ。世界を知らないだけなのよ。この世界には興味のあることで溢れている。だからドローナにも広い世界を知ってほしい。一人じゃないと教えてあげる誰かが必要なんだわ)

 精霊は食事を必要としない。けれど食べられないというわけではなく、好んで人の真似をしたがる精霊がいたり、人に寄り添うとする精霊もいる。
 同じ精霊であるベルネが料理に夢中であることから、そのきっかけとしてカルミアはドローナにも料理を勧めてみたのだ。

 その結果――

「カルミア! 今日はなんの料理を作るの? 私、甘いものが食べたいわ。ねえ、早く教えなさい!」

 学食には新たな従業員が増えた。
 カルミアと同じ制服をまとい、誰よりも賑やかなドローナからは、かつての寂しげな面影は消えていた。

「たく、うるさいのが増えたねえ」

 ベルネは頭を押さえているが、悪態をつくだけで行動を起こすようなことはなかった。
 ちなみに二人とも、カルミアの紹介でお互いが精霊であることを知ったらしい。それまで互いに干渉することもなく、認知さえしていなかったそうだ。これからは同じアレクシーネ時代の精霊同士、仲良くしてもらいたいと思う。

「どうしたのカルミア? なんか嬉しそうだけど」

 ドローナに指摘されたカルミアはいっそう笑顔を深くする。厨房が賑わう様子が嬉しくてたまらないのだ。

「ドローナが一緒に働いてくれて嬉しいんです。これから頑張りましょうね」

 他の二人が名前で呼ばれているのに自分だけ先生というのは気に入らない。そんな理屈から、カルミアは名前で呼ぶことを強要されていた。きっとドローナもここでは教師ではなく仲間として接してほしいのだろう。その証拠に名前を呼ばれたドローナは子どものように喜んでみせた。

「ええ、カルミア! 世界にはまだまだ私が食べたことのないスイーツが待っているのよね。楽しみ、私頑張るわ! 人間の世界がこんなに楽しいものだなんて私、知らなかったのよ……」

「なんだい。今頃気づいたのかい」

 ドローナの囁きを受けたベルネがにやりと笑う。
 するとドローナは分かりやすくむっとした。

「少しくらい先輩だからって、偉そうにしないでくれる。お菓子作りなら私の方が先輩だってこと、忘れないでちょうだい!」

 確かにプリンの作り方を教えたのはドローナが先だが……。