「ドローナ先生が受け持つ授業は少ないと聞いています。そこで空き時間を有効活用し、学食で働くというのはどうでしょう!?」

「どうもこうも料理なんて出来ないわよ。私に料理なんて、出来るわけないじゃない……誘う相手、間違えてない?」

「いいえ。間違いありません。私にはわかります」

「何? 知ったような口ぶりだけど、何がわかるっていうのよ?」

「ドローナ先生、退屈していますよね」

 その言葉でドローナは呆れるばかりだった表情を改めた。
 興味のないことには無関心であるはずのドローナの瞳が揺れる所をカルミアは見逃さない。

「貴女は退屈している。そう、例えば何かが足りないと感じてはいませんか?」

 このドローナもまた、アレクシーネという存在を諦められずにいるはずだ。彼女のいない世界を退屈に感じている。しかしドローナの退屈は孤独に通じるものだった。

(ドローナの思う退屈はアレクシーネ様を失った孤独からくるものよ。自分は精霊だから人の輪には入れない。だからいつも寂しそうに外を眺めている)

 それをドローナは退屈だと誤解し、アレクシーネの姿を求め続けている。

(なら一人にさせない。退屈させなければいい!)

 ドローナも身に覚えがあるのか否定はしなかった。

「だから、どうしたっていうの。貴女が私の退屈を紛らわせてくれるとでも?」

「いいですよ。だから学食で働きましょう!」

「そこから離れられないの!? どうして私が学食で働くことになるのよ。私は退屈を紛らわせろって言ってんの!」

「料理って、奥が深いんですよ」

「は? な、何よ……」

「それこそ一生かけても習得が難しいくらい、無限の可能性があるんです。新しい料理だって、いくらでも生み出せます。きっと楽しいですよ」

「そうかしら。私にはわからない。そもそも私、食事の必要がないと言ったらどうするの?」

「でも、食べられないわけじゃありませんよね。まずは食べるだけでもどうでしょう。職場見学のお試しも兼ねて、一度学食に来てみませんか!?」

「遠慮しとくわ。あんなもの、好きになれるとは思わない」

「では明日、一度だけでもお願い出来ませんか」

「貴女、話を聞かないってよく言われない?」

「人生で一度限りも言われたことはありません。お願いします。それで無理なら諦めますから!」