(そうよね。リシャールさんから見れば私は料理だけの女。ずっと料理だけしているように見えているんだわ。実際、学食勤務中は忙しくて何も出来ないし、放課後は学園関係者に話しかけたりもしているけどたいした進展もない。これはもう仕事が遅いって催促されているんだわ!)

 カルミアは焦っていた。この状況を打破するためにはまず何が必要か、考え続けていたのである。
 そして行動を起こすべく立ち上がったのが現在というわけだ。

 対してカルミアの発言を耳にしたロシュとベルネは揃って意味がわからないという顔をしていた。
 しかしそれも無理はないことである。彼らはカルミアがここにいる本当の目的を知らず、焦るカルミアの心を理解することは難しい。

「私、ちょっと行ってくる!」

「え、あ、はい……?」

 颯爽と走り去るカルミアに圧倒された二人は大人しく見送るしかなかった。
 しかしカルミアにも悠長に説明している余裕はない。これから交渉に向かうのはとても危険な相手。ゲームのシナリオにも関わるため、賭けでもあった。

(彼女がどこにいるかは既に調べてあるわ)

 重要参考人だ。初日にその存在を確認し、現在も密かに監視を続けていた。
 学食を飛び出したカルミアはとある教室へ向かう。

(ゲームでも、彼女はよくそこにいたわよね)

 いつだって彼女は退屈そうに外の世界を眺めていた。ガラス一枚の隔たりが、彼女にとっては越えることの出来ない境界のように思えるのだろう。自分はみんなとは違うと、眼差しはそう訴えているようだった。
 真っ赤な色彩に挑発的な瞳。赤い唇に妖艶な身体つきは、同じ女性でも憧れてしまうほどの魅力がある。けれど彼女の眼差しはいつだって寂しげだ。

「何か忘れもの?」

 まるでベルネのように、振り返ることもなくカルミアの存在に気付いてみせる。しかし興味はないと、振り返ることさえしない所も似ていた。
 この言葉さえカルミアに掛けたものではないのかもしれない。しかしカルミアはいいえと、はっきりここにいるという意思を示した。

「次の授業でこの教室を使う予定はないはずよ」

 カルミアはまた否定をする。

「……誰?」

 煩わしそうにではあるが、ついにカルミアに視線が向けられた。ようやく自分を訪ねて来たという可能性に気付いたようだ。