あれから数日が過ぎた。
 学食は賑わい続け、カルミアは罪悪感を感じることなく食事の対価を受け取れるようにもなった。
 メニューにも種類が増え、栄養面も考慮した食事を提供するようにしている。これで攻略対象の食生活も守られたと言えるだろう。
 学食は大繁盛。大忙しである。

 そう、忙しいのだ。

 忙し、すぎる……。

(このままじゃ密偵どころじゃない!)

 学食が賑わうのは素晴らしいことではあるが、密偵の仕事がおろそかになっていることは否めない。
 これは早急に打開策を講じる必要があるだろう。

「そうだ、スカウトに行こう」

 本日も学食は大盛況。今日も今日とて怒濤の勤務を終えたカルミアは、そう宣言するなりすくりと立ち上がる。
 たったそれだけの動作で育ちがいいことが窺える。そんな美しい所作ではあるが、令嬢にはあるまじき虚ろな瞳だ。
 無理もないだろう。この時カルミアは我慢の限界を迎えていた。
 それというのもリシャールが訪れる度にプライドが傷付けられるという、苦難の日々を過ごしていたからである。

(もう無理限界。なんとかしないと……昨日も今日も、そして明日も明後日も、リシャールさんの物言いたげな眼差しに迫られ続けるのは嫌っ!)

 昨日も今日も。なんならその前の日も、リシャールは学食を利用している。時にはオランヌを伴い、ある時は一人で座席についていた。
 最初のうちはカルミアも純粋に常連客だと喜んでいた。しかし時が経てばたつほど、リシャールからの眼差しが催促に思えてきたのである。