そんなカルミアは初日の光景を知っているだけに、フロアに出るたび賑わいに圧倒されていた。学生と教師で埋め尽くされたフロアは何度見ても壮観だ。
 無駄に広いという印象を抱いた日が懐かしく、有効活用されている姿に涙さえ浮かぶ。
 ロシュは休みなく会計に立ち回り、利用法についても丁寧に説明していた。

(そうよね。そうよね。これが本来の学食というものよ!)

 自分は成すべきことをやり切った。
 すでにカルミアはやり遂げた心地でいたのである。
 しかし――

 ほどなくしてピークが過ぎると席にも空席が目立つ。そこで現れたのがリシャールとオランヌだった。

(この人の存在忘れてたー!)

 リシャールを前にすると、自分が何をするためにここにいるのか、否応なしにも思い出さされる。というより、思い出せと言わんばかりに姿を現したように見える。

(そうだった……私は密偵なんだから、学食が繁盛して喜んで終わりじゃないわ! なるほど、そういうこと……。私が本来の目的を忘れないように、わざわざ釘を刺しにきたのね)

 くるりと踵を返してロシュが伝えてくれた料理を取りに返る。
 そしてすぐさま舞い戻り、料理の元へ歩いて来た二人を笑顔で出迎えた。

「ご来店ありがとうございます」

「こんにちは、カルミアさん。あまりの美味しさに、また来てしまいました」

 リシャールがにこやかに話し始めると、連れ立っていたオランヌも口を開く。
 長い髪を緩やかに結ぶ姿はまるで女性のようで、唇にも鮮やかな色が乗せられている。その唇はゲームで見た通りの友好的な笑みを作り、同じ声のトーンでカルミアへと話しかけていた。

「こんにちは。貴女が噂のカルミアね? この人ってば、貴女の料理がすっかりお気に入りみたい。いくらあたしが誘っても一緒に食べてくれなかったくせに、学食なら誘うまでもなく向かうってどういうことよ!?」

「すみません。うるさくて」

 リシャールが謝れば、すかさずオランヌが酷いと呟いた。注文が途切れ、学生の数は少ないが、オランヌの存在によって賑やかさは増した気がする。

「改めまして。初めましてね、カルミア」

 オランヌから手を差し出されたのでカルミアは握手に応える。仕草や言葉使いは女性のようだが、手を握ればそれは大人の男性のものだった。

(きっとこういうところに乙女たちはときめくのね……)