もし、年相応の人生を歩んでいたら?

 同い年の子たちと恋の話題に花を咲かせていたかもしれない。
 同じ制服を着て、放課後には街で買い物をする。
 休みの日には友達と遊んで、美味しい物を食べに行く。

 そんな生活に憧れがないと言えば嘘になる。けれどいくら仮定の話をしたところで現実は変わらないだろう。この生き方を悲観したことは一度もないのだから。

(生まれ持ったチャンスに、自分で選んだ生き方。私はこの人生を気に入っているわ。ここがカルミア・ラクレットの生きる場所よ)

 けれど納得すればするほど、不思議なことに自分には別の生き方があったように思えてくるのだ。

(まるで必死にその別の生き方とやらを否定しているみたいね)

「おや?」

「どうしたの?」

 カルミアの疑問は声につられて消えていた。
 続いて甲板を見下ろすと、ざわざわと動揺しているような気配が広がっている。
 見下ろした限りでは銀髪の青年と、金髪の青年が中心となって会話をしているようだ。

「あれはリデロと……銀髪の方は見かけない顔ですね」

 金髪の青年は船の副船長をつとめるリデロ。日に焼けた髪と日に焼けた肌に、シャツを羽織るだけの身軽な服装は見張り台の上からでも容易に判別がつく。
 対して相手の青年はスーツを着こんでいる。見知らぬ人間であること、そしてこの船には似合わない服装から、事件かもしれないとカルミアは身を乗り出す。

「様子を見てくるわ」

「お気をつけて」

 了承の合図に手を振ると、カルミアは見張り台から飛び降りた。

「リデロ!」

「お嬢!?」

 頭上から振ってきた船長の声にぎょっとしてリデロは目を見開く。