スッキリした…。
あたしも、言いたかったんだよね、きっと。
理音くんに話を聞いてもらいたかったんだ。
「じゃあ、寝ようか」
「うん」
「仲直りえっち、する?」
「えっ、しないよ…?明日学校だし…」
「しようよー。したいよぉー。明日もサボってふたりでいたいー」
「はい、おやすみ」
「マジで…?久しぶりの由乃なのにぃ…」
抱きしめられて眠って。
お母さんに連絡してなかったことに気がついて、朝に慌てて電話をした。
「連絡よこせー。ご立腹だよ、パパが」
「えっ?工藤さんが?」
「俺の娘が不良になったーって騒いで、うるさいから酒飲ませて寝せた。まだ寝てる」
「ご、ごめん…。今日はちゃんと帰るからね?工藤さん、早い?」
「どうかな?」
「あたしがご飯作るからって、工藤さんに言っといて?」
「わかった。由乃も大変だねー。新しいお父さん、バカで」
でも、嬉しい。
あたしはいろいろな人に大事にされてる。
それを忘れちゃいけないよね?
その日、学校が終われば、すぐに買い物して、家に帰って。
工藤さんの好きなものを作る。
「ただいまぁ…」
いつもより早い帰宅の工藤さんに、ひとまず謝った。
連絡しなかったこと、怒ってる…。
「由乃ちゃんの行動、制限したいわけじゃないけどさ…。さすがに、彼氏の家にお泊まりするとかさぁ…高校生なのにさぁ…」
「ご、ごめん…」
「理音くん、忙しいんでしょ?それはわかってるんだけどね?お父さん的に微妙ですー」
「う、うん…」
「由布子さんが甘いんだ…」
「違うよ。あたしの責任でやったことだから。あたしが怒られるよ。お母さんは悪くないもん」
「大人だねぇ…。じゃあ、外出禁止だ‼︎って言ったらどうする?」
「えっ、が、我慢する…よ?」
「そんなこと言わないけど…。まぁ、俺もね、由乃ちゃんのこと、大事にしてるんですよ。だから心配するの。連絡は、ちゃんとしてね?」
「ごめんなさい…」
工藤さんは、やっぱりあのお父さんとは違うね。
お父さんをお父さんとは、思えなかったもん。
「工藤さん…?」
「ん?」
「あたし、就職先…自分で探してみる。接客、やりたいなぁって思ってて…。工藤さんからの申し出は、本当にありがたいんだけど…」
「そっかぁ…。会社に入れたら、囲えると思ったのに…」
「あたしのお父さんは…ね?」
「うん…?」
「ちゃんと…工藤さんだよ?」
「由乃ちゃっ…」
「心配かけてごめんなさい。あたしのこと、たくさん考えてくれてありがとう。これからもよろしくお願いします、お、お父さん…?」
「由布子さぁぁぁぁぁぁん‼︎今の録音しておけばよかったよぉ‼︎」
「大袈裟ー‼︎」
たくさんの人に迷惑をかけて生きていく。
頼って、頼られて。
これが人なんだろうな。
あたしももう少し大人になって、しっかりしなきゃダメだね。
理音くんとのケンカは、意味のあるものだった。
これから先もぶつかることがあるかもしれない。
だけど、一個ずつ、乗り越えて行けたらいいな。
【理音】
由乃とケンカしてからしばらく、俺たちは憧れの野芝さんに誘われてステージに上がった。
今日は由乃も紗雪も見に来ていて、俺は野芝さんに負けないように叫ぶ。
まぁ、前座みたいなものだけど。
じいちゃんが作ってくれた、俺たちのグッズも、すぐに売れてくれるようだ。
ものすごく気持ち良くて。
俺は今日も、野芝さんを横から観察する。
「はーい、今日hack見に来た人ー。これ、俺らのツアーだからね?hackのファンは帰っていいよー」
今日も素敵だ、野芝さん‼︎
もう、大好きですっ‼︎
「アイツら、1回俺らの誘い断ったんだけど。生意気だよねぇ。なんか、平日は学校だからダメだとかって。本当、面白いヤツらだよ」
野芝さんが弄ってくれると、野芝さんたちのファンも、俺たちに興味を示してくれる。
本当にありがたい…。
そして、マジでカッコよくて。
1回裏にやって来た汗だくの野芝さんに、タオルを渡す。
「お前、出れる?俺らの曲、頭に入ってっか?」
「は、入ってますっ‼︎」
「歌詞、間違えたら半殺しだからな。呼んだら出てこい」
えっ、えっ…えっ⁉︎
すごくドキドキしてきて。
終盤に差し掛かった時、野芝さんが俺を呼んだ。
渡されたマイクを握って、緊張しながら近づく。
「リトから歌え。合わせる」
「終わったら泣きます」
「ははっ、泣き虫だな、お前」
俺がリトルヘブンで動画をあげた曲。
今日、いちばんの歓声と、いつもと違う音の中、思い切り歌う。
目が合った野芝さんと、合わせて歌う贅沢な感じ。
嬉しすぎて、どうしたらいいかわからなくなる。
歌い切った瞬間、涙が溢れて、そのまま手で顔を隠した。
「ね?可愛いヤツでしょ?じゃ、お前は横で見てなさい」
言葉にならず、頷いて、頭を下げて横にはけた。
ヤバすぎ。
「泣くなよ、バカ」
「嵐生〜…、俺、幸せすぎるっ」
「カッコよかった。さすが理音だな」
ペットボトルの水を渡しながら、俺の頭をガシガシと撫でる。
あの日、嵐生が俺に声をかけてくれなかったら、俺はこんな感情知らずに生きていた。
タカとスバルが、俺を受け入れてくれたから。
だから俺は今、ここにいられるんだよ。
あんなに暗かった俺を…。
「俺、嵐生もタカもスバルも…大好き」
「「理音ー‼︎」」
「仲間にしてくれて…ありがとう」
「やめろって‼︎今、テンションおかしいから…俺まで泣きそうだろうが‼︎」
「はははっ、泣いていいよぉ?」
「「泣かねぇよ‼︎」」
止まらなかった涙。
感謝しかない。
いろんな人に、メンバーに、野芝さんに。
本当に感謝だ。
「「お疲れー」」
終わったライブ後、打ち上げがあると、連れてこられた貸切の焼肉屋。
大人たちはお酒、俺たちはお茶やジュースで乾杯。
すごく、楽しいよ‼︎
「hackいいわー。マジで盛り上がった」
「「ありがとうございました‼︎」」
「また泣くとは思わなかったけどな」
「だって…野芝さんと歌ったんだよ…?俺、もう人生に悔いなしって感じ」
「タメ口かよっ、リト」
「あっ、ごめんなさい」
「ははっ、いいよ、別に。生意気だけどな。嵐生、お前おもしれぇなー。あのMC好きだぞ」
とっても楽しかった…。
そんな夢のようなライブが終わり、打ち上げが終わってから家に帰りシャワーを浴びて由乃からのメッセージを読む。
『すごくよかった‼︎Tシャツ買っちゃったよー‼︎』
『来てくれてありがとう。Tシャツなら言えばあげたよ?』
『自分で買いたかったの‼︎』
送られてきた画像には、由乃と紗雪が俺たちのTシャツを着てるツーショット。
今回のライブのポスターの前で、めっちゃ笑顔で。
ふたりとも、楽しそうだ。
よかった、来てくれて。
俺もお返しに、野芝さんとの打ち上げ写真を送った。
『キャー‼︎野芝さん‼︎』
『ファン?』
『ファンになった‼︎カッコよかった‼︎』
『今度一緒にライブ見に行こう』
『絶対行く‼︎』
由乃と共通の話題ができたことが嬉しくて、顔がニヤけて。
しばらく由乃とやりとり。
『理音くんが童貞で定着しそうだね』
『スバルはすでにゲスで定着しちゃったっぽいよ』
『スバルくん、可哀想ー』
俺はもう童貞じゃないんだけどなぁ。
興奮して眠れる気がしない。
リビングに出れば、ひとりでお酒を飲んでる父さんがいた。
「どーしたー?」
「寝れなくて。興奮中」
「野芝、いいヤツだよね」
「超カッコいい‼︎」
「俺じゃなくて?」
「父さんは俺の中で父さんなんだもん。バーストのメンバー、生まれた時から知ってるし。俺は野芝さんのファンなの」
「なんか悔しー。今度野芝に会うからイジメとこー」
「やめてよね。良くしてもらってるんだから」
「ねぇ、俺たちともいつか…やろうね?」
「うん。父さんがhackを認めた時に声かけてほしい。それでなくても、俺はウタの息子だって先入観持たれてるし…」
「そう?理音の歌唱力は認められてるでしょーよ。リトルヘブンで出て、実力晒してからデビューしたのは正解だったと思うよ」
お茶を片手に、父さんと話す。
なんだか父さんが嬉しそうで、俺がこうなることを望んでいたのかもしれないと、今更気がついた。
今まで聞いたことのなかった話なんかを、たくさん聞かせてくれた。
やっと寝たのが明け方。
次の日はもう、いつまでも寝ていたくて。
昼前に目覚めたけど、起き上がることも億劫。
でも、昨日の感謝を思い出すと、いてもたってもいられずに、パソコンの前に向かう。
耳にはもちろんヘッドホン。
最近ね、ブワーって溢れ出す。
音がね。
俺はやっぱり、嵐生の書く言葉が好きで、それを歌うことがたまらなく嬉しくて。
時間も忘れて曲を作っていたら、スポッと頭から離れたヘッドホン。
「また作ってんのか?」
「嵐生。いつ来たの?」
「さっき。蕾さんの昼メシ食った」
「ヒマなんだね」
「なんつーか、寝てらんねぇなーってさ。昨日の余韻、ヤバイくらい残ってんの」
同じ気持ちでいてくれた嵐生。
その後にタカとスバルもアポなし訪問。
みんなバカだね。
音楽バカ。
俺は今日、歌わないよ?
喉、休めたいからさ。