少しだけめかし込んで、緊張しながら向かうホテル。



着いたら電話をする約束で、喉がカラカラの状態のまま電話をかけた。



「も、もしもしっ…」

「由乃か?」

「はい…。着いたので…連絡を…」

「そのまま中に入っておいで。迎えが行くから」

「わかり、ました…」



なんだか震えて来た。



怖いのかな、これ。



どんな人?



迎えってなに?



「工藤 由乃さんですね?」

「あっ、はいっ」

「こちらです」



スーツを着た若い男性に連れられて、レストランの中に入った。



奥の広いテーブル。



そこにいる、ひとりの男の人。



スーツ姿に、パーマのかかった長い髪。



ヒゲが似合う、美形の人…。



第一印象、モテそうだと思った。



「由乃」



低い声で私を呼ぶその人が、きっと本当のお父さん。



ニコリと笑うその顔は、お母さんが言ったようなクズに見えなかった。