あれれ?



あたしは今、何を言ったの…?



「り、理音くんっ…あたし…」

「やっぱり由乃がいいね」



ニコッとしないで‼︎



あたし今、とんでもないこと言ったよね⁉︎



「自意識過剰みたいじゃ…」

「いいんじゃん?本当のことだし。俺、由乃にしかキョーミないよー」

「ヤダっ‼︎ご、ごめんっ‼︎おこがまし過ぎるっ‼︎」

「どうして?俺、嬉しかったけど。由乃が俺の気持ち、ちゃんとわかっててくれてるんだなーって」

「…………ごめん」

「逆になんでそんなに自信ないの?」

「だって…理音くんとあたしは別の人間でしょ?人の本当の気持ちなんて…わからないものじゃん…」

「わからせてあげるよ。俺んちね、今から」



そう言って連れてこられた理音くんの家で、理音くんの部屋。



ベッドに押さえつけられた腕が、ちょっと痛い。



「俺の愛し方が足りなかったみたいだから」

「えっ…?」

「心がわからないなら、体に教えるしかないよね?」

「いやっ、あのっ…」

「覚悟はいい?嵐生と紗雪からのプレゼント、今日で全部なくなっちゃうかもね」



ちょっと理音くんっ⁉︎



リビングには蕾さんがいて、カギはかかっているけど、こんな状況で。



声を必死に押さえて、ただ、理音くんにしがみ付く。



こんなの、おかしくなる。



怖い。



「理音くっ…も…怖っ…」

「ははっ、我慢してるの?おバカだなぁ、由乃は。由乃専用なんだから…たっぷり食べさせてあげるよ」

「待っ…」

「言ったでしょ?わからせてあげるって」



意識がなくなる。



もう、お腹いっぱいだから…。



これ以上、食べられないっ…。



「なに寝ようとしてるの…。由乃にしかこうならないんだよ?わかった?わかんないなら…まだ残り3つあるよ?」

「ごめっ…も、ムリっ…」



わかったから。



もう、わかったよ。



あたし、理音くんに愛されてるから。



自信持っていいんだよね?



もう疑わない。



信じる。



「はぁ…中に…出したい…」

「はぁ⁉︎」

「責任なら取るよ。俺、めっちゃ働くし。苦労させるかもしれないけど…一生大事にするから…」

「なに言ってるの…?」

「それくらい…好きだよ」



泣きそ…。



理音くんはそんな無責任なことはしないけど。



もう、十分わかったから。



「あたしも…大好き…。理音くんが有名になっても…ずっと隣にいたい…。離れたくない…」

「大丈夫。俺ね、多分、由乃と結婚するから」

「なんでそう言い切れるの…?」

「だって、由乃が他の人好きになることなんてありえないもん。もし、そんなことが起こったら…監禁するって言ったでしょ?」

「あっ、それ本気なの…?」

「うん。だから、俺から離れない方がいいよ?俺を犯罪者にしないでね」



理音くんの狂気じみた愛情は、ちゃんと受けとりました。



少しは自信持って、理音くんの隣にいてもいいのかな?



「で、由乃も目が覚めたことだし。俺はまだまだ元気なのですよ」

「えっ、もう、ムリだよ…?死んじゃうかも…」

「んー、そっかぁ…。なら、俺も一緒に死ぬから大丈夫」

「へっ…?ウソ…でしょ?」

「最近由乃不足だったんだから、許してよ。ほら、俺のリトルが復活しちゃった」




理音くんの愛は、結構重いらしい。



あたし、きっと理音くんから一生離れられない。



【理音】



俺の誕生日。



はじめての野外フェス。



「やっばーい‼︎テンションあっがるぅー‼︎」

「理音ってこんな明るいヤツだったっけ…」

「見てよ嵐生‼︎ステージだよっ‼︎」



テンション上がりまくり。



レコーディング以来の仕事は、野外フェス。



出番は中盤で、初めて来た土地に、初めての野外。



「はしゃぐな、ガキ…」

「じいちゃんもテンション上げて行こーよ」

「俺が上がってたら恥ずかしいだろうが」



心配したじいちゃんが、俺たちについて来てくれた。



右も左もわからないので、とても助かる。



「響さん」

「おぅ、久しぶり」

「ありがとうございます。受けてくれて感謝してます」

「本当にいいのか?こんなガキ共出して」

「何言ってんですか。ネットでどれだけ話題になってるか。どこにも出ないから、うちが独占しちゃった感じになってますよ」

「何かあれば言ってくれ。ライブにも慣れてねぇから、こっちも不安だ」



ワクワクっ‼︎



挨拶に行って来いと言われて、挨拶に向かう。



「うっわー‼︎なんだっけ…hack‼︎生のhack‼︎」

「はじめまして、hackです。今日はよろしくお願いします」

「マジで呼ばれたわけー?お前らすげーな」

「はははっ…。全く自信ないし、知ってる人たちばっかりでビビってて…」

「大丈夫だって。楽しめよ」



そう言われても、みんなガチガチなんだよね。



なんで楽しもうとしないのかな?



こんな広い場所で、歌が歌えるなんて最高じゃないか。



「お前お前っ‼︎リト…だっけ?動画見たけどマジやべー‼︎」

「よろしくお願いします、リトです」

「あれすげーよかった‼︎ウィルの‼︎やっぱウタさん仕込みの歌唱力なの?」

「教えてもらったの、最近ですけど。動画はその前から上げてて…中3から?かな」

「初期、中3⁉︎バケモンだな」



なんか褒められたよー。



有名な人、結構いて。



みんな俺たちの動画を見てくれていたようだ。



そして、俺が憧れてる人もいた。



タトゥーいっぱいの腕と、超イカしたサングラス。



「野芝さんっ‼︎」

「んぁ?」

「超ーかっけーっ‼︎あっ、はじめまして、hackのリトですっ‼︎」

「あぁ、ウタさんの」

「やばい‼︎ソンケーですっ‼︎好き‼︎」

「ん?あぁ…」

「ああああ、握手…してください…」

「はいよ」



もう、手を洗いたくないかもしれない…。



この人は20代で、俺が好きなバンドのボーカル。



とにかく激しいライブと、盛り上がる音。



何度も見返したライブ映像に、何回心奪われたことか。



生でもカッコいい…。



「お前、俺らの曲…動画で歌ったよな?」

「あっ、はい…」

「お前が歌ってからCD売り上げ伸びたんだけど」

「ごめんっ、なさい…?す、好きで…」

「はははっ、怒ってねぇよ。ありがとな。すげーよかったよ」



もう、きゅん…。



由乃、俺…浮気しちゃうかも…。



とにかくカッコいい野芝さんたちは、さすがのトリを務める。



見ててくれるって‼︎



もう、テンションヤバいよね。



やるしかないよね。



次々と他のバンドやアイドルが出て行き、俺たちの番が近づくと、本当に殴ってやろうかと思うくらいガッチガチのみんな。



「バカなの、お前ら」

「「はぁ⁉︎」」

「プロなんでしょ、一応。間違ったら間違ったで、次に間違えなきゃいいじゃん。ライブだよ?やりたかったんじゃないの?」

「だって見てみろよ…あの人数…」

「気持ちいいだろうね。イっちゃうかも」

「理音って本当にバカ…。この間まで童貞だったくせに」

「ほら、やるよ」

「やり、ますか‼︎」



ここまできたら、もうやるしかないんだよ。



初めて上がった大きなステージ。



動画を見て、俺たちの歌を聴くために残ってくれている人たち。



「hackー‼︎」



歓声、凄いね。



文化祭?



ライブハウス?



ううん、規模が違う。



ノリも、熱さも。



今までになく、熱い。



俺はこの大きな舞台で、ただひたすら。



歌うだけ。



いちばん初めにとりあえず歌えば、お客さん達も学習してきてくれたようで。



ノリがヤバイ。



楽しすぎる。



止まらない。



とにかく大声で、この雰囲気を楽しんだ。



モッシュやダイブ。



そんなにノってくれる?



なら、俺もノるよ。



たまらずに出した声は、受け入れてもらえているようだった。



「hackでーす。はじめましてーですよ。まさか呼んでもらえると思ってなくて、こんなデッカいとこに上がれるなんて、俺たちみたいな最近出来ましたーみたいなバンドには夢のようです。泣きそうなの我慢してたら、すげー足震えてきて、でも、そこのデッカいのが気持ち良くてイっちゃいそうだって言うので、楽しんでやらせてもらいます」



何てこと言うんだ、嵐生くん。



信じらんない、マジで。



「下品、嵐生…」

「は?お前が言ってたんだろ」

「そんなこと言ってない。卑猥ー。ゲスの次に卑猥」

「…………リトが喋ってるってことは、すげーノってるみたいなんで、次の曲行って黙らせます。この腐れ童貞」




そのまま嵐生が曲に入ってしまい、俺の童貞疑惑はそのままで。



笑ってくれたお客さん達のハードなノリについて行くように、最後まで歌い切った。



野芝さんが、笑いながら迎えてくれる。



聴いてた?



どうだった?



「お前ら最高」

「うわぁ、泣きそう…」

「泣くなよ、童貞。大したもんだった」



もう、嬉しくて。



泣くよね。



やり切った。



俺、すごく楽しかったよ。



ボロボロと泣き出した俺に、暖かい励まし。



今日出るバンドのお兄さん達に、めっちゃ慰められた。



「それにしてもゲス、お前ドラムうめぇな」

「いや、俺スバルなんですけど…」

「えっ、ゲスじゃねぇの?」

「スバルです…。リトが『ゲス、ゲス』言うから、なんか定着してんじゃん‼︎お前マジ最悪‼︎」




最後に野芝さんのめちゃくちゃカッコいいボーカルを目に焼き付けて帰ろう。



「いやぁ、よかったね、今日。hack、よかったと思うよ。感動して裏で泣いてっかんね、あのでけぇヤツ。可愛いよ、ああいうの」



野芝さんにMCで弄られたけど、ものすごく、楽しかった。