ガッカリしながら、学校に着いて。



紗雪がまだ来てないので、ひとりで席に座り、ため息をついた。



「雛森…」

「わっ‼︎」

「怒ってる…?」



あたしの目の前。



机からピョコっと顔だけ出した理音くんが、捨て犬のような顔をしていた。



か、可愛すぎて直視できない…。



「お、怒ってない…」

「こっち見ない…」

「み、見れるよ⁉︎」

「なんで怒ったのか、俺わかんない…」

「怒ったんじゃないの…。不甲斐ないなぁって、自己嫌悪に陥っただけ。誕生日、お祝いしたかったから…ごめんね?」

「別にいいんじゃん、俺の誕生日なんて。雛森の誕生日の方が重要でしょ?」

「同じくらい、理音くんの誕生日も重要なんだよ」

「そうなの?黙っててごめんね」

「ふふっ、可愛い、理音くん」

「雛森の方が可愛いよ」



お互いに笑えば、どうでもよくなるあたしのバカさ加減。



これが理音くんのいいところ。



揉め事にもならずに終わっちゃうところ。



そんな理音くんは、なにやら手紙をたくさん持っていた。



自分の机に行く前にあたしのところに来たようで、カバンもまだ肩にかかったまま。



「それ、なに?」

「わかんない。俺の下駄箱にいっぱい入ってた。イジメ?」

「たぶん、それ…ラブレター的な何かなんじゃ…」

「えっ、なんで…?超いらない…」

「み、見てみれば?」



渋々開封した理音くん。



『一目惚れです』『ここに連絡をしてください』『付き合ってください』と、その他もろもろ。



ラブレターじゃん‼︎



「どうすんの、これ」

「いらないけど…個人情報満載…。あっ」



ちょうどよく、担任が教室に入ってきた。



手紙を手に近づいた理音くん。



「これ、シュレッダーお願いします」

「はぁ⁉︎おい、もらったラブレターを先生に渡すって…どんだけ極悪非道なんだ、お前…」

「だって、処分するのに、個人情報が…」

「いや、天道のその常識的な判断は間違ってないんだぞ?でも、気持ちだから…」

「いらないのに、俺…。雛森がヤキモチやいたらどうすんの?」

「俺に言われてもなぁ…」



先生をとても困らせていた。



中には『ファンになりました』というものもあり、それだけは持って帰ると。



先生はシュレッダーを貸してくれるけど、自分でやれと言っていた。



理音くんは、やっぱり理音くん…。



その様子を見ていた他の子たちが大爆笑してて、理音くんがクラスに溶け込めていることが、なんだか嬉しく感じた。



「なぁなぁ、これヤバくね⁉︎」



山口くんがテンション高く現れて、手には理音くん同様、ラブレター。



こっちは嬉しそうだ…。



「おはよー。嵐生、それなに?」

「下駄箱に入ってた‼︎俺、モテ期到来?」

「ははっ、バカじゃん。変な女に引っかかっちゃダメだよー」

「紗雪が彼女になれば、こんなの捨てるけどね」

「…………本気?」

「えっ、結構マジで言ってっけど?」

「嵐生、次の授業、サボって話したいんだけど」

「あっ、うん…?」



急展開だった。



これ、どうなっちゃうの?



頑張るんだよ、紗雪‼︎



【理音】



1日授業をサボっていた嵐生と、夕方のバイト。



ボーッとしてる。



紗雪となんかあったのは、安易に想像がついた。



「付き合った?」

「あっ、うん、まぁ…」

「嵐生と紗雪とか、予想外。泉が好きじゃなかったの?」

「いずみんはほら、憧れじゃん?期待してねぇって言ってたじゃん。俺もそこまでバカじゃねぇって」

「で、何で悩んでんの?」

「バイト終わったら、理音んち行っていい?」

「いいけど」



泊まりだね、これ。



でも、本当にビックリ。



あの紗雪が嵐生と付き合うとか、意外すぎて。



「理音ー、これ、張り替えてくんね?」

「いいですよ。別料金ですけど」

「頼む。お前、仕事丁寧だし」



常連の強面さんのギターの弦を張り替える。



その姿を見て、学ぼうとする嵐生の、そういうところがいいと思う。



何にも考えてなさそうなのに、ギターに対しては真面目なんだよね。



俺と修平さんがいる日は、弦の張り替えくらいの依頼は受けることになった。



ただし、素人だからということが前提だけど。



「理音、俺、掃除行ってくる」

「よろしく」



弦を張り替えながら受付。



慣れた俺は、楽しんで仕事をしてます。



で、終わったら嵐生を連れて家に帰る。



とりあえずふたりで筋トレに励み、なぜか一緒に風呂に入る。



「キレイな顔して…」

「なに…」

「凶器じゃん、お前のそれ。由乃、気の毒…」

「凶器なの…?」

「日本人じゃねぇのかよ…」

「日本人ですけど…」



父さんがクオーターだったね。



地毛、かなり明るいし。



俺のリトル…リトルじゃなかったのか…。



「おい、こっち見んな…」

「なんかごめん…」

「憐むな‼︎普通だから、これが‼︎」



ギャーギャー騒ぎながら風呂から出た。



あっ、泉がいる。



「あっ、嵐生くん」

「おかえり、イズミちゃん。今帰り?」

「そうなの。疲れたからお風呂入って寝る」

「大変だなぁ、女優さんは」



普通、なんだよね…。



泉にその気がないことは、兄の俺から見てもわかる。



連絡先の交換すらしてないみたいだし。



嵐生も本気ではなかったってこと?



よく、わからない。



俺は雛森しか好きになったことがないし、恋愛に疎いんだと、最近自覚してる。



部屋に入って、嵐生の布団を敷いて。



「で、何を悩んでんの?」

「紗雪って、マジで俺のこと好きなんだと思う…?」

「紗雪はなんて言ってたの?」

「気づいたんだって。あのステージ発表で」

「そうなら、そうなんじゃない?紗雪って、ウソつかなそうだし。嵐生はどうなの?」

「紗雪のことは前から美人だなーって思ってたよ。彼女になったら、俺、鼻高いなーって。その程度…」

「でも、付き合ったんだ」

「俺って最低…?まぁ、紗雪にもそのことは言ったけど。心が痛ぇっつーか…」



嵐生の悩みは罪悪感の塊だった。



でも、それは違うと思うんだよね。



「これから好きになれば?」

「えっ?」

「別にいいじゃん。紗雪も嵐生の気持ち知ってるんでしょ?嵐生がこれから意識すればいいよ。紗雪、俺も好きだよ。友達としてね」



なんでそんな意表をつかれたみたいな顔してんの、嵐生…。



俺だってまともなこと言う時はあるよ。



みんなが勝手に俺が天然だとか言ってるだけだからね。



「そっか…。そうかもな…」

「うん、そうだよ」

「じゃあ、浮かれていい?」

「いいと思う」

「紗雪とかってアリ⁉︎あいつ、顔、超タイプだかんね‼︎」

「よかったねー。で、俺、歌って来ようかと思うんだけど」

「俺も行くっ‼︎」



そろそろ、本当に投稿しなきゃ。



俺に何かあったのかと、そんな感じの雰囲気になっちゃってるからさ。



音楽部屋に嵐生と入った。



「ねぇ、嵐生も歌う?」

「は?俺はいいよ」

「一緒にやろうよ」

「俺はうまくねぇって…」

「コーラスでいいよ。あっ、アコギにしよ‼︎初見でいける?」

「はぁ⁉︎マジで⁉︎」



浮かれた嵐生と、ふたりでやる。



2、3回練習させれば、ちゃんと弾けるようになってて、あの地獄の合宿がムダじゃなかったと思った。



やっぱり、音楽って楽しいね。



夜中までかかって、編集して。



投稿した。



「なんだよ、リトルヘブンwithストームって。ダセェな」

「俺もダサいから、いいでしょ?」

「あははっ、楽しかった‼︎」



そんな嵐生と、寝たのが明け方で。



起きない俺たちを起こしに母さんがやって来て。



ご飯食べて学校へ。



今日もシュレッダーか…。



昨日やったけど、あれ、地道にめんどくさい…。



休み時間潰れるんだよね…。



教室に行けば、寄って来た雛森と紗雪。



「昨日のアレって、嵐生⁉︎」

「そうそう。紗雪と付き合ってテンション上がってた人」

「そ…なの…?」

「そうだよ。紗雪、頑張ってね」

「…………ありがとう、理音。あんた、いいヤツだね」



友達の恋は、これから見守っていこう。



きっと、嵐生もすぐに紗雪が好きになるよ。



だって、紗雪だもん。



あっ…。



俺の悩みを嵐生に聞いてもらうの忘れた…。


なので、学校が終わってからのバイトで嵐生に悩みを打ち明けた。



「は…?」

「だから、どうやってエッチすんの?何すればいいの?」

「えっ、そこから…?ネットとか、なんでもあんだろ…」

「怖いじゃん。ウィルスとかさぁ…」

「わかった。お前今日、俺んち来い」



初めてお邪魔した嵐生の家では、お母さんが大歓迎してくれた。



友達の家にお泊まり、初めてだ…。



コンビニで買った夜ご飯を食べて、筋トレしてからお風呂を借りて。



「では、ただいまより、エロDVD観賞会を始めます」

「うん、いいよ」

「理音が本気にするとやべぇから、ソフトなヤツ、兄貴の部屋からパクって来たから」



ドキドキしながら見た。



えっ、こんな…ウソ…。



「い、痛くないの…?」

「いいか、理音。これはほとんど演技だ」

「演技…」

「これはやったら引かれるヤツな」

「うん…」

「こんな盛大に声なんか出ねぇからな?」

「ふむふむ…」



勉強になったと、思う…。